PCデポという会社がある。パソコンの販売だけでなくアフターフォローに力を注いでいる。日経新聞では高齢化社会の成長産業として賞賛されているのだが、Twitterでは悪徳企業として炎上しかかっている。出火元はこちら。
一人暮らしの80歳の男性が10台のデバイスをカバーする契約を結ばされており、解約しようとしたところ、20万円を請求されたというのだ。通常では考えられない「解約手数料」なのだが、実際にはいろいろと付帯契約を結ばされていたらしい。いわゆる「押し売り」をされていたようだ。既にYahooファイナンスで問題になっており、広報のコメントにもともとの告発者が反論したりしている。
法的にはセーフなのだろう。一応、お客さんの同意を取ったようなので、契約としても成り立っている。しかし、これを見た人たちはどう思うだろうかとか、株価にどのような影響を与えるだろうかという視点が欠けているように思える。
今度は、お客のクレジットカード情報を含んだ個人情報をクラウドにアップしているという件がネットで発見された。こうなると、上場企業のコンプライアンスが疑われる。またやはり「騙されていたのか」という人たちも続々現れている。さらに1テラバイトのハードディスクに4テラバイトのクラウドを付けて5テラバイトとして売っているという案件も発見された。つまり、どんどん延焼しているのだ。
最終的には日経新聞に記事が載った。ちょっとした書き込みをきっかけに、株価が18%も下がったそうだ。
いわゆるIT企業というものが堕ちて行く様をまざまざと見せられているようで哀しい気分になった。企業にはいろいろな「収益の上げ方」があるわけだが、結局、お金を溜め込んでいる高齢者を騙して不必要なサービスを提供するようなやり方をしないと儲けることができないのだ。IT業界がオーバースペックに落ち込んでいるということが分かる。
確かに、高齢者とパソコンの関係には問題が多い。
パソコンはとても複雑な機械で、ある日突然動かなくなる可能性がある。また、高齢者のパソコンの使い方を見ていると、設計者が想像もできないようなとんでもない癖を身につけていることが多い。さらに、高齢ユーザーは「定期的にバックアップすべきだ」などという基本的な知恵がない。馴れている人ならバックアップを取ったりしてそうしたトラブルが起らないように様々な方策を取るのだが、それもまだパソコンが趣味だった時代にトラブルに遭遇して身につけた知恵だったりする。
にもかかわらず、日本の高齢者はパソコン信仰は強い。タブレットを見せても「何か本格的じゃない」という理由で使いたがらなかったりする。タブレットやスマホは女子供のものであって、自分はパソコンを使うのだという意識が強いのかもしれない。
パソコンを知っている人は通信販売で価格を比較して買い物をする。そもそもスマホで最低限の支出しかしない。価格で競合できないメーカーや量販店はあまりPCが得意でないユーザーにサービスを売らざるを得なくなる。こうした人たちに親切に対応すると疲弊する。結局、おとなしい人たちを騙して余計なものを買わせるようなサービスだけが生き残るのだ。
オペレーション上にも問題がありそうだ。社内では知識によって序列ができている。社員が偉いというわけではなく、バイトでも知識を持っている人の方が「実質的に偉い」ということが起る。2ちゃんねるを見ると教育制度は整備されていないらしいので、もともとアルバイトや社員が持っている知識を前提に成り立っているのだろう。
すると、皮肉なことに「パソコンを知らない人」つまりお客の序列が一番低くなってしまうのだ。会社からは予算(PCデポはノルマがないが、予算設定はあるそうだ)を与えられているので、当然「騙される客が悪いのだから」という意識が芽生えることになるのだろう。会社は「まじめにやっている」人と「お客を騙して不必要なものを売りつけている人」を区別することはできない。
荒れ果てたマーケットで、モラルを保つのは難しい。アップルが高い意識を保てるのは、高い金を支払うリテラシーの高いユーザーに支えられているからだ。
この問題を考えていて、一企業を責めてみても、あまり問題の解決に役に立たないことに気がついた。どうして、高齢者社会の日本では、高齢者が間違えずメンテナンスも難しくないないシステムがつくれないのだろうかと思った。バックアップが簡単でメンテナンスフリーというのはすでにiPadなどで実装されている。技術的にUIを限定するのは簡単だろう。
問題は2つあるように思える。1つは日本のメーカーに開発力がないということ。もう1つはマーケティングの問題だろう。「らくらくスマホ」と呼ばれる製品があるが、あのようなマーケティングをされると「おじいちゃん扱いするな」という気持ちになるのだろうなあと思う。