若者のなんとか離れを嘆く前に考える事

デジタル一眼レフを買った。中古ショップで5000円以下の品物は1つしかなかったので迷うことはなかった。できることとできないことは予め決まっている。とはいえ当初の目的は達成できたので満足だ。そこから、カメラはレンズとセンサーによってできることが変わるということも学んだ。その上、ソフトウェアもダウンロードすることができた。ソフトウエアを使うと、画像を編集したり、パソコンと接続して写真を撮影することができる。

つまり、ユーザーは品物を買うと、品物に対する体系と何ができるかということ(経験)を学ぶのだと一般化できる。逆にいうと「手に取るまで、そうした知識を身につける事ができない」ということになる。

これが迷いなくできたのは、皮肉なことに選択肢が多くなかったからだ。一般的に人間は選択肢が多すぎると選択そのものができなくなってしまうとされている。選択肢の多さが参入障壁になっているのだ。

試しに量販店に行ってみた。売り場には各社のカメラが並んでいる。いろいろなスペックが氾濫しているのだが、機能や価格は各社横並びである。同じ「写真を撮影する」という目的のために30,000円のカメラがあり、20万円のカメラもある。30000円のカメラを買って後悔するのは嫌だし、かといって20万円で失敗したら目も当てられない。売り場には各社から派遣された店員がいるのだが(大抵は契約になっているはずだ)妙な意識を働かせる。自社の製品だけをお薦めしていると思われるのが嫌なのだ。そこで「どの製品を選ぶかはお客様次第ですね」というのだ。

一度、何かのカメラを買っている人は、ここから「(自分にとって)正しい選択」ができるかもしれない。しかし、新規のユーザーは多分多すぎる選択肢の中から適当なものを選ぶ事はできないだろう。各社とも有名な俳優を使ってコマーシャルを作っているが、カメラを買うまで、誰が何を薦めているのかさっぱり分からなかった。小栗旬、平井堅、綾瀬はるか、向井理がカメラを持っていることは分かっても、どこのカメラのどのような機能を宣伝しているかは伝わらないのだ。

エントリーレベルの製品というのは各社出しているので「買わせる」ことはできるはずなのだが、エントリーレベルもプロ仕様も一律に置かれているので、却って分かりにくくなってしまうのだろう。

よく考えてみると、知識体系と経験を作る為の方策はいくつもある。

一つは学校を作る事だ。学校といっても本格的なものである必要はない。母と子のワークショップとか、そういう類いのものでも十分だ。題材もソーシャルネットワーク向きにきれいな食べ物の写真を撮影するというくらいで十分だ。重要なのは、ターゲット向けにプログラムが組まれていることだろう。

次の方策はソフトウェアを使った継続性だ。コンパクトデジカメにも本格的なソフトウェアを付ける。その品質に満足できたユーザーの中には、新しくカメラを買う時に同じ社の製品を選ぶだろう。ソフトウェアを拡張してゆくと、オンラインで写真をシェアしたり、店頭で簡単に写真を印刷できたりとさまざまな「経験」を提案することができる。こちらは若干設計が異なる。ターゲット向けに細分化してはいけないのである。

こうした総合的な経験を提供できる会社にパナソニックやソニーがある。スマホを作っていて、総合的な経験を構築しうる立場にある会社だ。しかし、日本人は縦割り意識が強く、カメラ事業(例えばソニーはコニカミノルタからカメラ事業を買っている)とスマホ事業で経験を統合するということができないようである。アップルには「独裁者」がいて、経験を統合した。ソフトウェアをプラットフォームとコンテンツに分離したのだ。

キャノンはプロフェッショナル向けの経験作りに成功しているのだが、写真に特化したことで機能を複雑化させずにすんだのかもしれない。結果的に、プロのワークフローをアマチュアユーザーにテイキョウする事に成功している。

実際のデジカメ市場ではネットワークの原理が働いているようだ。「カメラに詳しい」人がいるのだが、たいていキャノンの作った経験に沿って仕事をしているようだ。キャノンはスタジオ撮影を円滑に進める為に必要な経験をソフトウェアとして提供しているからだ。これが「デファクトスタンダード」になっているわけだ。カメラを欲しい人は、プライベートのネットワークを通じて、カメラの知識を獲得する。すると、フォロワーのカメラもキャノンということになってしまうのである。

日本の家電店は経験の拡大をやっていた。電子レンジを売る為に料理教室と提携するというのがその一例だ。しかし、家電がありふれたものになり、価格中心になるとこうした機能が失われた。結果、個人の家電店は消え、徐々に家電量販店が台頭した。皮肉なことに家電量販店はその地位をアマゾンなどの通販に取って代わられた。役割はショップというよりショーケースのようなものに代わりつつある。ショーケースに特化するなら、家電店は料理教室やカメラ教室などを運営すべきということになる。

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