一橋大学の同性愛者自殺裁判

一橋大学のロースクールで同性愛者が自殺をしたというニュースがTwitterで話題になっている。クラスメイトの男性の告白をしたところ断られた上に、告白されたことを暴露されたらしい。結果、パニック障害になったのだが、大学側は適切な援助をせず「ちゃんと授業にでないと卒業できないよ」と逆にプレッシャーを与えたというのだ。

これを受けて多くの人が「大学の対応はけしからん」と言い、被告男性を責めた。大学側は性同一性障害と同性愛の区別すらついていなかったらしく「え、そこからですか?」という驚きはある。また、告白された側の男性が「人間のクズ」であることは間違いがない。

しかし、大学や被告を責め立てたとしても問題は解決しない。

同性愛者がマイノリティとして生きて行かなければならないというのは事実だ。マイノリティにはマジョリティ以上の「胆力」が求められる。ある程度強くなければ生きて行けないのだ。だが、同時にマイノリティはそれほど珍しい存在ではない。

例えば新宿二丁目に行けば同性愛の人が大勢いて、この手の「失恋話」は珍しいことではないだろう。「かわいそうねえ」と同情してもらえることもあるだろうし「そんなの当たり前じゃない」という人もいるにちがいない。同性愛だけがマイノリティではないことを考えると、以外とありふれた存在である。

そのように考えると、この大学の特殊性が浮かび上がってくる。一橋大学のようなエリート校のロースクールに入るためには、社会勉強をしている時間はなかったのかもしれない。その上、学校関係者もエスタブリッシュメントばかりを相手にしてきたのだろう。そういう「どマジョリティ」の人たちは、同性愛と性同一性障害の区別すらつかなかったのだ。

ロスアンジェルスでは男性同士がベッド一つの家に住んでいるというのは自慢したり悲観したりするほど珍しいことではない。その人たちがオネエ言葉で話すということもないし、スカートをはいて社会生活をしているわけではない。芸能界にはオネエ言葉の弁護士などがいて、良い稼ぎをしている。そういう人たちをみて顔色を変えることは政治的には正しくない態度だと考えられている。「あなた同性愛者なのか」と聞くこともない。さらに民族的なマイノリティエスタブリッシュメント(顕著なのはユダヤ人だが、その他にイラン人のコミュニティなどがある)層が住んでいる。このような多様性が都市の繁栄を支えている。

この多様性をふまえた上で日本社会を考えると、マイノリティ問題は実は深刻な問題を含んでいる。さらに、ここがロースクールだったことを考えると、その閉鎖性は致命的だ。法律家は人権問題を扱う訳だが、人権抑圧される人は何らかの意味で少数派だ。しかし、その当事者が少数派に対するまなざしを持っていない。それどころか「マジョリティ」を偽装しなければ生きて行けないほど均質な社会なのだ。そのような社会では少数性は「単なるスティグマであって、社会のお荷物だ」という意識を生み出すのかもしれない。

実は多様性は活力なのだが、そうした視線を持ち得ないのだ。

さらに少数性への対処も遅れている。例えば教会などだと「いじめられてかわいそうねえ」などと頭をなでられることはない。教会は常に問題に接しており(中には子供を失った親などという救いのないケースもある)「強く生きてゆかなければならない」などど諭されることが多い。しかし、エスタブリッシュメントばかりの大学は日の当たる側面しか見てこなかったのだろう。

少数性は誰でもが直面する問題だ。例えば、周囲に例のない健康問題を抱えればそれだけで「マイノリティ」である。

これを指摘するのは少々残酷だが、こうした均質な環境で、自殺した本人も本当の意味でマイノリティについて考えたことがなかったのではないかと考えられる。同性愛者だからといって、自動的に他の同性愛者を受け入れているとは限らない。どのような家庭環境なのかは分からないが、もしかしたら息子が「普通でない」ことを受け入れられなかった可能性はある。

社会人経験を持っていない人がいきなり法律家になるのも問題だ。適切な休学制度などがあれば本人は閉ざされた教室から解放されていただろうし、それなりに人生を考える時間や、社会について学ぶ機会が得られたはずである。新宿二丁目か海外に出れば「同性愛者」がどのように扱われているかを知るチャンスもあったはずだ。

一橋大学でロースクールに入ることができたほどの人が、外に出さえすれば、様々な経験ができたはずで、それは社会の多様性を促進する上で大きな助けになったはずである。

人がパニックを起こすほど孤立しても、その人に代わって孤立してやることはできないし、その人のことを100%理解してやるのは不可能だ。しかし、周りにいる人は「あなただけではない」と言ってやることができるはずである。

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