古館伊知郎が報道ステーションを降りるといって大騒ぎになっている。官邸の圧力だろうというもっぱらの評判だ。しかし、分かりやすいところにかける圧力は圧力とは呼べない。無知蒙昧な庶民を「教育してあげる」のが本物のプロパガンダだろう。もともとカトリックの宣伝のことを軽蔑的に呼んだのがはじまりだそうだ。
今年撃沈した大河ドラマ『花燃ゆ』の後半のテーマは「女と教育」だった。女は教育をつけて国の経済発展に尽力すべきだというメッセージである。「経済力を付けて自立すべきだ」という台詞が語られた。そうすると「私らしく輝ける」というのである。
今年後半の朝ドラ『あさが来る』のテーマも「女と社会進出」らしい。福沢諭吉(武田鉄矢が押し付けがましく演じている)が「女も教育をつけて経済的自立を果たし責任を負うべきだ」と主張した。ドラマ自体は楽しく見ているのだが、武田鉄矢には「うんざりぽん」だ。
この2つは偶然選ばれたのではないのだろう。女性進出を政治的スローガンとしている安倍政権の動き(ウーマノミクス)と重なるからだ。確かに女性の社会進出自体は悪い事ではない。
確かに女性は期待されている。企業で正社員を非正規で置き換える動きが進んでいるので、女性は貴重な労働力として期待されているのだ。政府によると、女性は働き手であるとともに、家事や育児をこなし、将来は介護労働にも携わるべきだ。
一方で女性が重要な役職に就く事は好まれない。政府は小泉政権の頃に掲げた女性公務員の管理職の割合を30%以上にするという目標を7%に引き下げた。政府は「女性を管理職にしたらカネを払う」と言っているのだが、申請した会社はほとんどない。
そこでNHKのメッセージだ。NHKの考え方によれば、女性の社会進出が遅れているのは、女性に教育と意志がないからである。だから、教育を付ければ自ずから女性は社会進出するであろうというのだ。実際には女性の教育は進んでいるが、女性が教育を付けたからといって男性並に稼げるわけではない。実際には補助労働力として期待されているだけだ。もちろん「学をつければ良い仕事に就ける」という期待を持てる男性も減っている。
もちろん、どのような作品を選び、どんなメッセージを乗せるかはNHKの自由だ。いやなら見なければよいだけだし、朝のドラマにそんなメッセージが込められているとは誰も思わないだろう。うっかり見逃してしまう人の方が多いのではないかと思う。
気になるのは「私らしく」という点だ。女性が意識を高めれば私らしく輝けるというメッセージには宗教的な響きがあるが、実際には取捨選択を迫られる上に自分の選択が正しかったのかについて確信が持てない。そこで周囲との比較が始まるのである。
この無責任なメッセージを政府がNHKに押しつけているとは思えない。おそらく政府の歓心を買う為に「自主的に」行っているのではないだろうか。明白に主張しているわけではないので、罪の意識も薄いかもしれない。しかし、こうした無責任なプロパガンダを流す前に、NHKは自らが雇っている高学歴で意識の高い女性が高い地位に就けるように努力すべきだろう。管理職の割合を50%程度まで引き上げるなら、NHKのメッセージを信じてもよいと思う。