サポートを親切にするのは良い事なのか

Twitterで面白い呟きを見つけた。スマホを普及させるためにはサポートを充実させるしかないのではないかという。

実際には日本の企業の中にも親切なサポートを提供する会社は数多くある。スマホだとNTT Docomoが親切だ。パソコンでは東芝のサポートが充実している。「Webが見れない」「迷惑メールが来るからなんとかしろ」などと言った基本的な操作方法でも無料で教えてくれるのだ。明らかに高齢者を対象にしている。

さて、これはいいことなのだろうか、悪いことなのだろうか。例えば、この時期のNTT Docomoは週末で3時間待ちになる。電話もつながらない。入学式シーズンでスマホを買い求める客が多いせいなのだろうが、理由はそれだけではなさそうだ。あまりスマホが分からない人たちが親切さをもとめてNTT Docomoに押しかけるからではないかと思う。すると結果的に、親切さがサポートを必要としているかもしれない人たちを排除してしまうのだ。

東芝のサポートは、電話だけでは分からないからと画面に赤い丸や矢印を手書きで表示してくれる。遠隔操作するのだそうだが、あたかも付ききりでパソコンの使い方を教えてくれる孫のようなものだ。だが、問題がある。必ずInternet Exploreを使えというので「なぜか」と聞いたところ、手順を決めているのだそうだ。「お客は何も知らない」ことを前提にしてオペレーションが組み立てられているらしい。だが、その手順に従うと設定が初期化されてしまう。こちらが「障害を切り分けたいので何か知見があるか知りたいだけだ」と言うと、ほっとした表情でいろいろと教えてくれた。だが、杓子定規なオペレータだとどうなっただろうか。「とにかく言う通りにしろ」となった可能性はある。そもそも初心者向けのマニュアル仕事ばかりしているわけだから「本当の障害」に対する知見は蓄積しないだろう。本当に困っている人は、排除されてしまう可能性が高い。

「スマホやパソコン」が分からない人は、頭が悪いわけではない。パソコンには基本の知識体系(認知体系ともいう)というものがあるのだが、それが身についていないのだ。認知体系が身についていない人と接する場合、面倒なことは聞けない(聞くとますます混乱する)のでなんでも初期化してしまうしかないのだろう。

もっとも企業努力で「初心者に優しく」かつ「適切でムダのない」サービスを提供することはできる。Appleは音楽などのコンテンツを売っているので、初心者にも間違いのないサポートをしてくれる。しかし、パソコンの操作についてはあまり詳しく教えてくれない。Appleのパソコン購入者は初心者ではないからだ。このようにしてメリハリをつけることで、リソースの有効利用を図っているのだ。そのためには少なくともトップの人が自社社員であり、一貫して自社製品についての知識を持っている必要がある。さらに、末端のオペレータも自分の判断で硬軟切り分けられるように権限委譲されていなければならない。

日本のコールセンターは外部委託かつパート・アルバイトなので、製品に対する愛着もなければ会社に対する関心もない。たとえ仕事に愛着を持ったとしても「そんなことは期待されていない」のだ。一人だけ特別なことをしようとすれば社員とぶつかるかもしれない。だから、Appleのような体制をとるためには、雇用体系と企業文化を変えなければならない。

このように、初心者に手厚いサポートを提供すると、今度は中級者以上を排除してしまうことになる。「どちらも同時に」というわけには行かないのだ。すると、お金を払ってくれそうな中級者たちは他の会社に流れることになる。サポートのコストは製品に乗る。自力で解決できる人は、より安い(あるいは適正な)価格の製品を求めるだろう。このようにして、コストばかりがかさんで、利益の薄い商売になってしまうのだ。日本の家電メーカーが次々とコンシューママーケットから退出するのにはいろいろな事情もあるのだろうが「サポートを手厚くしなければ、これ以上普及率を上げられないのではないか」という観測もその理由のひとつになっているのではないかと思う。

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