ツイッターNHK PRで「中の人」として活躍していた2号さんが担当を外れることになった。本人から説明はなかったものの、あるツイートが問題になったものと思われる。
当初、NHKは衆議院での安保法制の委員会採決(7月15日)と本会議採決(7月16日)を報じる予定はなかった。これが「強行採決」という印象を国民に与えないためにNHKが配慮しているのだとして批判を浴びる。ツイッター上では「コールセンターに電話しよう」という運動が起き、NHK PRのアカウントにも抗議が殺到した。
そこでNHK PRは「国会中継がないことについて抗議が来ている旨を担当に伝える」というツイートを出した。
結局、NHKは採決の場面だけは報じた。世論がNHKを動かしたのか、最初から予定があったのかは分からない。一方で、NHK PRの「伝えます」ツイートは削除され、ツイートした2号さんはツイッターの担当を外れることになったのだ。
背景にNHKの配慮があるのは間違いないだろうが、政府の「国民にはなるべく知らせないでおきたい」という思惑も感じる。
このNHKの姿勢は「中の人」たちを萎縮させるだろう。自分たちの持ち場で職業的道義心を発揮すると持ち場を外されてしまう可能性があるということになるからだ。職員たちはただ機械のように行動すればよいという暗黙の圧力である。
職業的道義心は大切だ。組織も社会も間違った危険な方向に進むことがある。リーダーが意図して間違った方向に進める場合もあるだろうし、誰も指導する人がいないのに危険な水域に進むこともあるだろう。このとき歯止めになるのは、現場メンバーの良心だけだ。
一方で、政府はNHKの萎縮が自分たちの首を締めていることも自覚すべきだろう。
賛成派の言い分に従うと集団的自衛権の放棄は、憲法上の制約ではなく、時の政権の「政策的判断」だ。そのことは、歴史を検証すれば分かるはずである。
確かに、ベトナム戦争時に沖縄の米軍基地を使用させたことも「後方支援」だと解釈できる。日米安保を維持しながら集団的自衛権の行使を容認しようと言わないのはねじれた対応であり、政府がどうしてねじれた対応をすることになったのかを検証する価値は充分にあるだろう。
しかしNHKは「政府を刺激したくない」と萎縮しており、こうした取り組みを一切してこなかった。その為に、賛成派は安倍政権や外務省の主張も一切知らされていない。だから賛成派のコメントは「自国防衛を強化するためには議論は要らない」の一点張りで、説得力のある議論が展開できなくなってしまった。
議論が噛み合ないせいで、国民の間には集団的自衛権や安保法制はなんとなくうさんくさいものだという印象だけが残った。このため、正義の使者であるはずの自衛隊は、当分の間こっそりと行動することを余儀なくされるだろう。