清原和博容疑者が覚醒剤使用の容疑で逮捕されてからしばらく経った。この問題を見ていて、この人は犯罪者として裁かれるべきではないのではないかと思った。
清原容疑者が薬に手を出したきっかけは痛み止めの服用だったようである。意外なようだが、痛み止めと違法薬物は地続きになっている。アメリカでは痛み止めへの依存性から抜けずにリハビリセンターに入る人もいる。記憶に新しいところでは(もう忘れている人もいるかもしれないが)トヨタ自動車で女性初の役員になったジュリー・ハンプ氏が「麻薬(オキシコドン)を密輸した」疑いが持たれた事件がある。痛み止めなのだが麻薬成分が含まれており、依存性もあるようだ。アメリカでは合法だが、処方を問題視する人もいる。
清原容疑者の報道者たちは、売れるネタが欲しいばかりに彼を見殺しにした。どうやら普段から異常行動があることを知っていたらしい。家族も気がついていて精神科もに担ぎ込まれたことがあったようだ。早くからリハビリセンターに入れていればここまで状況がひどくなることはなかったはずだ。それができなかったのは「犯罪者として前科がついてしまう」からだろう。
鎮痛剤など一部の人のものだと思うかもしれない。だが、麻薬と鎮痛剤が地続きになっているように、抑うつ状態と覚醒剤も地続きになっている。
「家族と離れて落ち込んだ」ことなどが清原容疑者をさらに追い込んでゆく。「ちょっとさびしい」ことで薬物やお酒への依存に追い込まれる人も多いはずだ。大人になると仕事がきついとかさびしいとかいうことはよくあるが、相談できる場所は少ない。動けなくなるほどぼろぼろになって初めて精神科に行くことになる。
精神科では長い時間待たされて5分ほど診察がある。そして、薬を渡されることになる。具合が悪いというと、薬の量が増えてゆくばかりだ。本当に必要な薬を飲まされているのか、5分ほどの診療でわかるはずはない。必要な薬を処方される人もいるだろうが、不必要な薬を飲まされている人も大勢いるはずだ。しかし、医者は困らない。親切に診療しても、5分で薬を与えても報酬は同じだからである。
誰でもうまくいっているときは良いのだ。しかし、何かトラブルがあったときに頼れる場所は多くない。その結果、非合法の薬物にすがることになる人が出てくるのだろう。いったん非合法薬物にすがると、そこから抜け出せなくなる。問題が地下化するからだ。特に覚醒剤は依存性が強く、再犯率も高いそうだ。
覚醒剤使用者を逮捕することで、却って覚醒剤の蔓延を助長しているのは確かだ。覚醒剤ばかりではなく、その他の違法薬物摂取者を見つけたら早めに通報してリハビリできる場所を作る必要があるのではないかと考えられる。
日本人はこうした薬物問題が起こると、逮捕して社会的に制裁すれば「なかったものにできる」と考えているようだ。確かに安心感を得る効果はありそうだ。「まっとうな社会は薬物的にクリーンだ」というメッセージだ。
しかし、もし問題を解決したいと考えるなら、今の法制度は健全に機能しているとはいえない。誰でも問題を抱える可能性があるということをもっと強く認識すべきだろう。