高校生になる息子が不思議そうな顔で聞いてきた。「ねえ、お父さん。さっきNHKっていう人が来てお金を払えっていうんだけど、あれは詐欺じゃないかなあ」
私は「どうしてそう思うの」と聞いた。
「だってNHKなんて聞いた事ないし、TVを持っている人はみんなNHKにお金を払わなきゃだめっていうんだ。そんなの詐欺だよねえ」
私はちょっとびっくりした。息子はNHKを知らないのだ。それも不思議ではない。我が家は光ファイバーでオンデマンドの番組を見ている。息子は自前のタブレットを使って、子供部屋で映画や音楽の番組ばかり見ている。たまにはTVの大画面でゲームに付き合って欲しいのだが、いつもつれない返事ばかりだ。
息子が小さい時にTV番組を見せようとしたのだが「アンパンマンを検索して」と言って泣き出してしまった。「TVではそんなことはできないよ」と言ったのだが、理解できなかったようだ。
私もちょっといけなかったのかなと反省した。TVはおもしろくないのでそんなに見ないのだ。いつそうなったのかなと思ったのだが、よく思い出せなかった。たしか、高市早苗総務大臣がTBSかどっかの電波を「政治的中立性がない」という理由で止めてしまったのがきっかけだったと思う。TBSの社長が土下座して高市さんに謝ったというのを週刊誌報道かなんかで見た記憶がある。
萎縮したTV局はその後、政府批判をしなくなった。コメンテータはいなくなり、どの局も政府の発表をそのまま流すようになったのだ。ニュース番組の後には安倍首相が各地を訪問する映像を流すようになった。
そういえば、ジャニーズ事務所が人気で視聴率も取れるというので、バラエティもジャニーズを礼賛する番組ばかり流していたなあ。同じような顔のタレントばかりが並び「TVってつまらないなあ」と思ったのだ。でもおじさん、おばさんたちの世代は好んでバラエティ番組を見ていた。感覚的には戦後すぐの人たちがニュースを映画館で見ていたような感じなんだろう。
家を建てた時もアンテナを設置しなかった。光ケーブルを引いたので、オンデマンド番組が見られるようになったからだ。光ケーブルだと、わざわざ録画しなくても帰宅してからニュースを検索で見られる。そのうち、Yahoo!ニュースでチェックしてから関連するニュースだけを見るようになってしまった。
昔の人は新聞を一紙しか取らず、TV局も数チャンネルしかなかったと聞く。そんな偏った情報だけで怖くなかったのかなあと思う。
「ねえ、NHKって何」と息子が聞くので「ああ、TVの放送局だよ」と答えた。すると息子は「でもTV放送って貧乏な人が見るもんなんでしょ。学校で友達が言ってた」と驚く事を言う。
確かに、光ケーブル網が発達してパソコンから情報を仕入れる人が増えた。録画機はなくなり情報家電回りはすっきりした。家にネットを引かずパソコンを持っていない人もスマホを大きなモニターに映して見ている。TVしかない家庭というのは、そういう所得の家庭なのだ。
「お前、学校では絶対にそんなこというなよ」私は息子に釘を刺した。そんな差別的なことを表立って言ってはいけないのだ。
今時政府公報のNHKの情報だけを信じている人など誰もいないだろう。そもそも、情報弱者だと言われかねないから、表立ってNHKを見ているなどは恥ずかしくて言えないのだ。
息子のバカな質問に答えながらスマホを弄っていると新しいニュースが入ってきた。視聴者を光ファイバー網に取られて受信料が取れなくなったNHKがまた放送時間を短くするらしい。紅白歌合戦や大河ドラマなどお金のかかる番組はとっくの昔になくなり、4月からは昼と夜に1時間づつ政府広報だけを流すようになるみたいだ。