1999年のウェブデザインを振り返る

フォルダーの整理をしていたら、昔のウェブサイトのスクリーンショットが出てきた。1999年のもので、主にテレビ局と音楽レーベルのサイトを集めたものだった。

この頃のサイトにはいくつか特徴がある。まず、文字がぎざぎざしている。この頃のブラウザーはスムーズな字が出力できなかった。スムーズな文字を出す為には文字を画像化する必要があった。いつごろ文字がスムーズになったのかと思い調べてみたところ、Windowsの文字をスムーズにする方法という記事が見つかった。Windowsでは2007年頃にはまだ文字はギザギザしていたようだ。マッキントッシュでスムーズなフォントが表示されるようになったのは2001年のOS Xからだ。

また、曲線も表現できなかったので、曲線を表示するためには画像に頼らざるを得なかった。しかし、画面全体を覆うような大きな画像は使えなかった。電話線を利用するモデムの速度は最終的には56kまで「高速化」していたが、それより早いADSLが登場するのは2000年代に入ってからのことだったようだ。

最大の特徴は全体を統合するグリッドという概念が薄いということだろう。現在のウェブサイトはまず大きな枠組みを決めて、その枠組みを分割してゆくことで画面全体を支配するデザインを作っている。中には画面幅を変えると全体の枠組みを維持したままで画像やセクションが拡大・縮小することもある。こうしたシステムをグリッドと呼ぶ。

当時のウェブサイトのデザイナーの中には出版出身の人たちもいたので「グリッドを意識したデザイン」というものは存在した。ところが、HTMLはもともと文章の構造とリンク関係を記述する言語であり、デザインには主眼が置かれておらず、部品は置くだけのものだった。当初は枠組みを記述するdivというタグがなく、デザインにはテーブル(もともと表を作るのに利用されていたものだ)を流用していた。1990年代の終わりにdivタグが登場した(1999年に出されたInternet Explore 5でもdivタグは表示される)あとも、しばらくはテーブルが多用されていた。縦線を記述するHTMLもなかったので、縦枠を引くためだけにテーブルタグを使うこともあった。

画像が使える事になったことで、ウェブにデザインという概念が持ち込まれたのは良い事だった。しかし、何でもできたために統一感がない上に「盛りだくさん」に情報が氾濫していたが、これが刺激的で新しかったのだ。

現在のウェブサイトは上部にグランドナビゲーションを横配置するのがお約束になっているが、当時にはそのようなお約束事はなかった。メインのメニューは左側に縦に並べられるものが多かった。中には画面の下にグランドナビゲーションを配置したコンテンツもある。メインコンテンツ(左)とサブコンテンツ(右:広告など)という概念もあまり明確ではなかった。現在の決まり事はこうしたさまざまな思いつきが淘汰された結果だといえる。

このように、1999年のウェブサイトと2015年のそれで一番違っているのは画面デザインについての考え方だろう。1999年のデザイナーはさまざまなパーツを組み合わせることで全体のデザインを組み上げていた。画面全体で個性を表現していたのだ。ところが、現在のデザインからはこうした個性が消えている。ウェブデザイナーの役割はモジュールとその配置方法を決める事であって、個性を決めるのはそれぞれのモジュール化されたコンテンツだ。

こうしたモジュール化はスマートフォンの登場でさらに加速しつつあるようだ。過剰なデザインはコンテンツに対する理解を妨げらるものだと捉えられている。そこで、過剰なグラデーション、背景の模様、陰影などは消え行く運命にある。陰影のついたデザインは小さな画面では視認性が悪い。そこでフラットなデザインが好まれるようになった。断片化された情報はソーシャルメディアによって切り取られ、横幅320ピクセルほどの画面でシェアされている。

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