熊本・大分の地震では「物資が足りない」という声が多く聞かれた。品物は足りているのだそうだが、分配がうまくいっていなかったらしい。そこで多くの人が「震災に備えて、自治体は情報をシステムを作っておくべきなのではないか」と考えたようだ。日本を元気にする会の松田公太参議院議員もその一人。
政府と連携する必要もありますが、やる気のあるIT企業もあたってみたいと思います。@naoyocn 「どの避難所で何が必要とされているかをリアルタイムで把握するのが難しいから」松田さん知り合いのIT企業の方で、システム構築に飛びついてほしい
— 松田公太 (@matsudakouta) 2016年4月19日
さて、ここで日本人が「システム」というと、中央に大きなサーバーがあり、その情報が集約化される図を思い浮かべるのではないだろうか。それをNECか富士通に作らせるのだ。その裏にあるのはオペレーション上の慣習だろう。下にいる人が上にいる人に決済を求めることになっている。だからシステムのその慣習に合わせるのだ。そのピラミッドの頂点は当然国である。
だが「車輪は発明するな」のことわざの通り、実際には情報を集約するシステムはできている。情報通信研究機構(NICT)が既にリリースしたシステムがあるのだ。だが、NICTの作ったシステムは、役所や国会議員が考えそうなものではなかった。Twitter上のつぶやきを分析して表示している。
中央集権的な伝達システムではどこかで連絡ミスが起きる。そもそも日本人はチーム連携が苦手な上に、最近の公務員は非正規が1/3を占めている。下が言ったことが上に伝わるということは期待しない方がよさそうだ。中央集権的なシステムは既に崩壊していると言ってよい。だったら、膨大な情報をそのまま抽出して「必要な人」が検索した方が簡単なわけだ。分配も計画的にやるより分散型でやった方がいい。手近にあるものを運べそうな人のところに運んでやればいいわけである。
そもそも「情報がないない」と言っていたのはお役所の人たちだ。情報通信研究機構(これは総務省管轄の研究所らしい)で何を作っているのか知らなかったに違いない。情報通信研究機構にも限界はあったようだ。UIがあまりよくないし、自然言語による質問には対応していないようである。予め想定された質問から選ぶことになっている。
技術そのものはできあがっている。Googleがそのよい例だ。「おそば食べたい」というと近所のそばやを検索してくれるという例のあれである。多分、こうした技術を組み合わせれば中央集権的な(コンピュータ用語でいうところの、サーバー依存の)システムを作らなくても、分散型でやってゆけるのではないだろうか。
Twitterでは「水道管が破裂した」などという報告を集めてくれるシステムを作ればいいんじゃないのかという意見も聞いたが、千葉市が「千葉レポ」という仕組みを運用している。エンジンはセールスフォースだそうだ。スマホで近所の危険情報などを報告すると市役所の職員がなんとかしてくれる(なんとかしてくれないこともあるが、経過は教えてくれる)という仕組みである。
かつてはちょっとした不具合だったとしても、市議に泣きついたり(市議会議員の仕事は実質的には苦情処理だったのだ)市長に手紙を書いたりしていた。市長に手紙を書くと数ヶ月後に部局長から形式的な手紙が送られてきていた。仕組みを作ることで、苦情の申し立てがしやすくなったし、その後の対応も分かりやすくなっている。
システムを発注するのは役所なので、どうしても中央集権的になってしまいがちだ。だが、実際に有事の際に役に立つのは分散系のシステムのようである。多分、システムに従ってオペレーションを変えた方が効率的な仕組み作りが楽にできるだろう。