2年ほど雨ざらしにしていた自転車のチェーンに油を注した。チェーンに塗るのではなく、一つひとつのチェーンに油を入れてゆくのだそうだ。正しくメンテナンスしたら動かないと思っていたギヤが動き出した。もう動かないから捨てようと思っていたのだが、捨てなくてよかった。雨の中で放置していた自転車には悪いことをした。調べると自転車カバーは100円ショップにも売っているそうだ。もっと早く調べればよかった、と後悔した。
なんでもないことなのだが、ちょっとした幸せのようなものを感じた。人から見ると、あるいは笑われるくらい小さな幸せなのかもしれない。自転車に気が向くということは「どこかに行ってみたい」と思うようになったことだ。人生には何があるか分からない。あるいは、もう立ち直れないと思うこともある。だが、その日々も永遠には続かないのだ。
人はすべて回復する力を持っている。その力は不思議なものだ。一日いちにちを過ごしているときには気がつかないが、回復は少しづつ進む。あるいは、回復とは元通りになることではないのかもしれないが、それは必ずしも「前より悪くなった」ということを意味しない。
今苦境にある人にはこの言葉は届かないだろう。闇の中にあるとき人には他人の言葉は聞こえないしそんな余裕もない。だが、それでも言いたいと思う。どんな人も回復する力を持っている。神様という存在があるのかどうかは分からないが、それは神様が与えた恵みではないかとすら思う。決して自らが努力して得たものではない。
世の中には様々な情報があふれている。本当もあれば嘘もあるかもしれない。しかし、人には回復する力があるということだけは確かなことである。私は今それを知っている。他人と比べればほんのささやかな知恵かもしれないのだが、私は今それを持っていて、誰かに伝えたいと思っている。