園芸ショップに見る顕示消費の変化

近所に100円ショップ、中古品店、GUが並んでいるショッピングモールがある。はっきりいって「中流から落ちかけた人たち」が集まる場所という印象のところだ。ところが、そこにこじゃれた園芸店ができた。高価なインテリア植物が並び、庭先には聞いたことのないような花が並んでいる。サボテン専用の温室とカフェが併設されている。

なぜここが選ばれたのかは分からないのだが、駐車スペースが豊富なところとまとまった土地があったからではないかと思われる。建物はプレハブなのだろうが、周りの庭に見たこともないような樹が植えられており、温室も整備された。

そこに買い物に来る人たちは美男美女が多い印象がある。子連れの姿も多く見られる。特に男性が「こぎれいな」格好をしていて、平均身長も高いような気がする。高齢者の姿は全く見られない。

花の値段は「少し高い」程度だ。例えばオステオスペルマムは産地が経営するショップで100円、ホームセンターで150円というところだが、ここでは300円程度で売られている。特徴的なのは色かもしれない。一般的な赤、黄色、青といった色合いは少なく、淡い色合いの物が多い。クリーム色のペチュニアなどが売られている。こうした色合いは単体で見ると地味なのだが、寄せ植え材として群生させてそれなりの植木鉢に植えれば見栄えがする。人によっては「シック」とか「アンティーク」などと表現する色合いだ。

特徴的なのは葉ものだ。寄せ植えをグレードアップさせるためには、花よりも葉ものを充実させる必要がある。斑入り、淡い緑、ブロンズ、シルバーリーフなどを組み合わせるのが基本なのだ。ホームセンターにはこれほど豊富な品揃えはない。ホームセンターの顧客は花壇のスペースを埋める必要があり、葉っぱを入れたとしてもアイビーが入るくらいだからである。ホームセンターは花の割合が6、野菜3、葉が1という程度ではないだろうか。

園芸に何を求めるかは人によって違っている。きわめて乱暴に一般化すると、戦前・戦中生まれの高齢者は野菜や果樹が好きだ。「役に立つもの」で埋めたがる。ところが主婦になると今度は庭先や玄関に「必要最低限の飾り付け」をする必要が出てくる。園芸はその意味では贅沢品ではなく、一般消費財に近い。いわば「必要経費」なのだ。ホームセンターでは、大量に同じような花を栽培する必要があるのだ。インテリアとしての観葉植物が100円ショップでも売られているのはそのためだろう。

ところが、人よりちょっとセンスアップしたくなると、とたんに「単体では全く役に立たない葉っぱ」が重要になってくる。葉ものがあるとないとでは見栄えが全く異なる。このような園芸に注目が集まるのは「ナチュラル好き」な人が増えているからだろう。オーガニックや有機栽培などの野菜にこだわり、チアシードやエルダーフラワーといった聞いたこともない「美容によい成分」を探す。そして日曜には見栄えのよい夫と子供をつれて園芸店に繰り出すわけである。時間と資金に余裕がないとそんな生活はできないわけだが、余裕がある人たちが大勢いることが分かる。

そういう人たちを惹き付けるのが「SNSジェニック(インスタグラム映えするというような意味だ)」なお店だ。そこで「すてきでナチュラルな料理」や「珍しい樹のある庭園」などが重要な役割を果たす。

こうした人たちはブランド品を身につけているわけではなさそうだが、まとまったこぎれいな格好をしている。かつてはブランド品のロゴマークを買うことが「顕示消費」だったわけだが、顕示消費の内容は、ブランドという記号を離れ、「ライフスタイルの誇示」とか「ちょっとした幸せ」の演出に移っているのかもしれない。

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