成果主義を追求したテレビ朝日の社長の辞任劇

政権に批判的な印象のあるテレビ朝日で不祥事が相次いでいる。まず東京オリンピック前に「局内の空気がおかしくなっているのでは?」という不祥事が起きた。最近になってテレビ朝日のセールスプロモーション局ソリューション推進部長三田研人容疑者(49)がIT導入補助金の詐欺で逮捕された。被害額は900万円だったそうだ。だがそれだけでは終わらなかった。なんと亀山慶二社長(63)が辞任したのだ。ありもしない出張をでっち上げて食事をしたりゴルフをしたりという「みみっちい」不正行為が原因だ。不正金額はわずか60万円だったそうだ。まさか「この程度のこと」で辞任させられるとは思っていなかったのだろう。




背景事情を調べると体育会系成果主義に陥った会社が転落してゆく典型的な経緯をたどっていることがわかる。日本式筋肉質経営が陥る凋落パターンだ。

テレビ朝日といえば朝日新聞社から経営陣が来ているのではないか?と思い調べてみた。どうやら違うようだ。2009年に「生え抜き」の早河洋社長が社長になって局内の朝日新聞支配体制が弱まった。皮肉なことにこれが今回の退任劇の源流になっている。成果主義の流れが強まり社長一派の暴走につながったのだった。中には社内のクーデターだったと指摘する週刊誌もある。

2009年のテレビ朝日は赤字に転落していたという。2008年・2009年といえばリーマンショックのあった年である。景気が落ち込むと広告宣伝費が真っ先に削られるわけだからこれも無理からぬことだろう。

テレビの広告収入が落ち込み制作費にも手をつけなければならないということ路まで落ち込んだそうだ。当時の君和田正夫社長は「構造的問題がある」と問題の根深さを表現している。制作費が安いバラエティ番組や通販番組がやたらに増え始めた時代だが2009年9月にはYouTubeとパートナー契約を結んでいる。こうして日本もやっと動画配信サイトに公式のテレビ番組が流れるようになった。

今回会長職のままで社長を兼任することになる早河洋さんは救世主とされているようだ。様々な役職を経験しているようだがニュースステーションのプロデューサをやり報道ステーションのキャスターとして古舘伊知郎氏を起用したなどという功績があるという。このころのテレビ朝日において闊達な政権批判報道は間違いなく売れるコンテンツの一つだった。

早河洋さんの元でなんとか危機を脱したテレビ朝日だが構造的な問題は今も改善していないようだ。テレビ朝日は視聴率は伸びているが広告収入は伸びていない。そんな中で成果を目指すとなるとおそらく最も手っ取り早いのはスポーツイベントへの傾注だろう。オリンピックはある意味広告代理店を救う公共工事だった、その恩恵はテレビ局にまで及んでいたようである。

今回の調査のきっかけは東京オリンピック関連の部署で不祥事が相次いだことだった。調べたところどうやら社長も関係していたということになり今回の辞任につながったという。おそらく社長の椅子をかけて虚偽の出張をしたわけではない。「この程度のこと」だったのだ。

亀山社長はスポーツ局長を会議に参加させず「ダイレクトレポート」にしていたそうだ。指揮命令系統が混乱しそれが職場環境の悪化につながったのではないかとスポニチは書いている。

どの程度のことが行われていたのか。週刊文春は過去の記事を掘り起こしている。イベント統括責任者A氏のW不倫疑惑である。

これを読むとなぜオリンピックが不祥事に繋がりやすいのかがわかる。IOCは公的機関ではない。国家権力のお友達が国の力を利用して行う興行である。そのために公的機関にあるような説明責任も求められない。これが個人的なつながりによって仕事を回すという体質につながる。

A氏はIOCの元委員に近かったという。仲間同士のつながりを重要視する体育会系営業マンと言った風情の人の「元気」が有り余っていた様子がわかる。企業倫理・社会的責任よりも仲間内のノリが優先される世界なのかもしれない。

ただ成果主義の光は暗い影を作り出した。成果を上げられないと外された人たちの嫉妬だ。

新潮がクーデターと断じた理由がわかる。スポーツの世界は個人的な人脈が生きる「体育会系」の世界になっている。亀山社長が代理店と組んで直接コンテンツを持って来たという気持ちが強かったそうだ。売れるコンテンツを持っている人たちが社内ルールになる。その影でスポーツ局局長はラインを外された。

いくつかの意味で典型的な企業転落の例といえる。営業危機に陥った会社が「筋肉質経営」を目指し成果主義に陥る。成果さえ上げていればあとは多めに見てもらえるというような企業風土ができる。組織のラインは無視され属人的な意思決定が行われラインを外された人たちの士気が下がってゆく。

これがテレビ朝日の救世主とされた早河洋さんの元で起きていたことだった。

それでも収益さえ上げられているのなら良いのではないかと思える。確かに最近のテレビ朝日の評判はそれほど悪くない。視聴率が上がっているのだ。

東洋経済がテレビ朝日の復調について書いている。テレビ朝日の視聴率はトップの日本テレビを脅かすまでになっている。だが広告収入は思うように上がっていない。東洋経済によるとコア視聴率と言われる高齢者を除いた層の視聴率の伸び悩みに理由がある。高齢者は広告の受け手としてはあまり期待されていないということになる。

テレビ朝日は「とにかく視聴率1位」というタイトルが欲しい。だがタマがないので高齢者視聴率に頼っている。だが「視聴率1位」というニュースにヘッドライバリューがあることも確かだ。共同通信は2022年1月に「テレ朝がゴールデンで民放首位 年間世帯視聴率、8年ぶり」という記事を出している。やはり一度「成功」するとそこから抜けられなくなる。

こうした風土はわかりやすい士気低下を生み出す。部長が補助金詐欺という「副業」にてを出していたというのもあるいは全く関係のないことではないのかもしれない。社内での成功は望めないからである。

政治報道にはやはり悪影響があるだろう。政権批判というのも「視聴率を獲得するための道具」だったということになるからだ。テレビ朝日では玉川徹さんなどが一貫して政府のコロナ対策を批判していた。あれも心配性の高齢者に受けるようなことを言っていただけである可能性が高いということになる。決して社会改革運動ではなかったのだ。モーニングショーが社長辞任を扱わなかったということがニュースになっている。

テレビ朝日のワイドショー系の報道番組はこのことを無視し続けるはずだ。社内政治に切り込めるはずはない。当然テレビ朝日の報道番組の政権批判も「所詮はおままごと」ということになる。

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