なぜ安倍首相の支持率は高いままなのか

安倍首相に人気があるのは世論操作ではない

Twitterで安倍首相の支持率が高いままなのはNHKが世論操縦しているからだというようなことを言う人がいる。しかし、これはあまりにもうがった見方なのではないかと思う。実際には安倍首相は国民のニーズを捉えているのではないだろうか。

トランプが大統領に選出されて日本人はかなり動揺したようだ。トランプが日本を敵視しているということはなんとなく知られていたからだ。宗主の機嫌を損ねれば日本は危ういと考えた人が多かったのだろう。日本人は権力と良好な関係を保持している状態を好むのだと考えることができる。関係性を意識しているのだろう。

日本人のニーズとは何か

日本人が恐れているのは現状が変わってしまうことだ。そのために緩やかな衰退を選択した。変化を起こせば状況が好転するかもしれないが、それが自分のところに及ぶかはわからない。で、あれば相互監視して勝ち組が出ないようにした上で、みんなで貧くなって行こうという選択である。

だから日本人は「今までどおりで大丈夫」と言ってもらえることを望んでいる。安倍首相はこのニーズに沿って行動しているに過ぎない。

実際には日本人は貧しくなっている。一人当たりのGDPは凋落の一途をたどる。先進国と中進国が成長を続けている一方で日本だけが成長していないからである。だが、そのことに日本人は気がつかない。みんなで貧しくなっているからだ。

もちろん、脱落するのも嫌なので手助けはしないで「自己責任」で切り捨てて行くし、学術の基礎研究や企業の国内投資のような未来への投資はしない。凋落してゆくのが分かっているから、未来への投資は合理的な選択肢と考えられないのだろう。

変わらないために政策が首尾一貫しないというのはおかしい気がするのだが、変えてはいけないのはアメリカとの関係なので、日本はアメリカの動向次第で日本の政策を転換しなければならない。だから、国内政策が一貫しないということになる。しかし、これもおおむね国民の合意が得られている。

もっと古層にある変わりたくない人たち

日本の政治をモニターしている人は、安倍首相が基本的人権を否定するような動きをしていると指摘するかもしれない。しかしそれはもっと昔の「変わってはいけない」を代表しているに過ぎない。それは、日本が戦争に負けてしまったという歴史的事実を受け入れないということである。中国や韓国が経済的に台頭したこともこの動きに拍車をかけており「敵」の姿は複雑になっている。

もう一つ安倍首相の支持率が高い理由は、左右対立にあるのだろう。アメリカの二大政党制はアイディアのコンペティションだが、日本の左右対立は、戦後すぐの東西対立が日本に持ち込まれた結果ガラパゴス化したものだ。

東側陣営は1989年に崩壊したので左派は人権や環境に逃げ込んで難民化した。人権や環境は左派のアシュラムだった。さらに厄介なことに、連合が正社員の労働組合であり既得権益化してしまっている。彼らも変わりたくないという点では、典型的な日本人気質を持っている。

さらにその下には非正規労働者の層が広がっているのだが、彼らを代表する政党はない。彼らは自己責任のもとに切り捨てられてしまった人たちだ。だが、もともと何も持っていないので変わりようはない。

対立が相互依存に変わるとき

一方の右派はアメリカに追従して経済利益を守ろうという人たちと、日本の敗戦や相対的な国力の低下を認められない人たちに分離している。中にはこれが一緒くたになっている人もいるかもしれない。1989年に共産主義が崩壊したように自由主義経済も今の形では存続しそうにない。トランプ大統領が「自由主義はアメリカから仕事を奪った」と宣伝したためである。

今、右派は明らかに混乱しているのだが、それを見ないようにしている。便利なことに、左派が繰り出すめちゃくちゃな非難を「デマだ」と言ってさえいれば、自分たちの矛盾を直視しなくて済む。そして「現状維持こそが最善なのだ」とつぶやき、自己肯定ができる他人の呟きを検索する。これは合理的な主張ではなく単なる願望なのだが、これには仕方がない一面がある。他に選択肢が見つからないからだ。

左派は右派なしでは存続できない。文句をいう相手だからだ。しかし、右派も現実に負けかけているので左派なしでは自我を保つことはできない。つまり、左右は敵同士ではなく、相互依存していることになる。

皆様のニーズに応えるNHK

「変わらない」ためにあらゆる無理を重ねているので、真実を直視することはとても難しい。本来なら目の前にある情報を見て、行動を決めればいいだけなのだが、それができなくなってしまう。そこで、言葉を言い換え現状から目を背けるという選択肢が生まれる。その意味ではNHKは政府のプロパガンダを行っているわけではないのではなく、国民の期待に応えているのだ。

日本にも仮想万能感を持っている人たちは多いと思うのだが、トランプのような扇動政治家は現れない。橋下徹が「インテリの敗北だ」と言っていたが関西以外には広まらなかった。東京を置き換えた怒りにただ乗りしようとしたのだろうが、うまく行かなかったようだ。これは日本人が等しく貧しくなっており、置いて行かれたと考える人が少ないからなのかもしれない。

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