毎日同じジーンズを穿いているうちに、ついに股がすり切れてしまった。素直にユニクロにでも行って「普通の(スリムストレートとでも言うのだろうか)」を買えばよいのだろうが「今、どんなものが流行っているのだろうか」と思い、いろいろ調べてみた。
試しに、ファッション雑誌を立ち読みしてみたのだが、いくつか問題がある。情報が脈絡無く並んでいる上に「生き方」を雑誌に合わせなければならないらしい。なぜ雑誌に生き方を強制されなければならないのか。
次にメーカーのウェブサイトをいくつか回ってみたのだが、知っているウェブサイトはどれもとても重い。しばらく待って表示されるのは馬鹿でかいイメージ画像で、どれもなんだかぴんと来ない。さらに、ファッション系サイトというのは、どれもイベントやキャンペーンの情報ばかりが並んでいる。あれは製品を売出そうとしているのではなく、マーケターが日々の仕事や知っている人たち(いわゆるセレブ)を自慢しているに過ぎないのではないかと思う。
では、全く参考になる素材が転がっていないのか、といわれるとそうでもない。例えば、Pinterestにはユーザーが選んだ素材が多くアップロードされている。気に入った素材を検索すれば、多くの情報を手に入れることができる。日本にもWEARのようなサービスがあり、多くのコーディネートを研究することができるのだ。
素材探しは楽しいのだが、結局何を探しているのだろうか、と考えた。全体を支配する法則のようなものを見つけ出して、効率よく「すっきり見える」形を探したいのだった。
ジーンズというのは全体を形作る部品になっている。いわゆるシルエットというものだ。昔の服装は製造工程の都合に従って直線的な形をしていた。今でも規制服の標準的なものを選ぶと、箱形のシルエットが作られるだろう。
ところが人間の体系はどちらかというと曲線を持った楕円のような形をしている。その楕円の重心をどこに置くかによってシルエットが決まる。この何年かのシルエットはこの重心を操作することによって「新しさ」を演出しているし、きれいな楕円が作れると全体的に「すっきり」した印象が作られるようだ。太さの違うジーンズというのは、こうした全体を作る為に利用されるのだ。
モデル体型から外れた普通の人は「細長い」すっきりとした体型を作る必要があるのだが、体型は変えられない。安い服を着るとシルエットは直線的になるので、視覚効果に頼ることになる。そこで利用されるのが「ヘルムホルツ」「ミューラーリヤー」「フィック」といった視覚効果だ。これはシルエットとは違っているが、効率よくまとめるためにはとても重要な情報だろう。
さらに体型が整っていれば、上半身の逆三角形を強調するために、セーターやTシャツの模様などを調整することもできるだろう。これも視覚効果の一つだろうと思われる。
こうした「シルエット至上主義」はイタリアのハイブランドが腰骨ぎりぎりのジーンズを売出したころには最先端だっが、若干揺り戻してから一般化した。普通だったジーンズの丈は流行遅れだということになってしまった。最近では「ノームコア」と呼ばれるミニマムなスタイルが「流行」し(脱ファッションの流れが流行するというのは奇妙なことだが)色や装飾がなくなったぶん、洗練されたシルエットの役割がとても大きくなった。
ファッション雑誌もこうしたシルエットごとに情報をソートしてくれればいいのにとは思うのだが、いくつかの点から実施は難しそうだ。第一に、ファッション雑誌は新しい製品を売りださければならないので、シルエットやディテールを絶えず操作する必要がある。さらに、整理された情報は「整然と」しているぶんだけ、退屈に見えるだろう。雑多さが活気を現すというのはよくあることだし、読者は同じお金を出すのだったら。さまざまな情報が欲しいと思うものなのかもしれない。最後に、そもそも雑誌は情報のソートができない。
さて、このように「全体を決めるシルエットさえ見つければよいのだ」という結論になったのだが、移り変わるのがファッションというものだ。同じようなものばかり作らされているデザイナーの間には、それを打破したいと考える人も多いのではないかと思う。実際に、最近のコレクションを見ていると体型を見せないシルエットなどがぼつぼつと登場しつつあるようだ。最初は試行錯誤かもしれないが、徐々に一般に受け入れられるシルエットが登場するのかもしれない。