花燃ゆが終った。視聴率は惨敗だったようだ。ツイッター上での評価も「史実と違っている」など散々だった。もともとNHKが安倍政権におもねる為に制作されたのだという噂があったので、仕方がないのかなという印象だ。
このドラマが惨敗したのは、視聴者のニーズに合っていなかったためと思われる。視聴者のニーズをまとめると次の3要素になる。「豪華なテレビゲーム」か「分かりやすいホームドラマ」が好まれる傾向にあるようだ。
- 勝利の爽快感
- 単純明快な分かりやすさ
- きれいさや豪華さ
いろいろなカテゴリで視聴率の平均値を比較してみた。試しに男性が主役のものと女性が主役のものを比べたが、どちらも変わりはなかった。今回「女性を主人公したのが敗因」という批判があったが、これは当たらない。女性ものを細かく見ると、橋田ドラマが貢献しているのが分かる。男性ものと女性ものではメインターゲットが違っているようだ。
次に時代で分けてみた。人気があるのは戦国時代だ。続いて人気があるのが江戸時代。それ意外の時代の人気は平均以下だ。明治維新期などは人気がありそうだが、あまり支持されないらしい。平安以前のドラマはない。日本史として認識されてすらいないのだ。
さらに、主役の階層を見てみた。権力者(最終的に政権に就く)や武将(戦国時代)に人気がある。中間権力者も合格だ。一方で庶民を扱ったもの(宮本武蔵、坂本龍馬、忠臣蔵などの有名なものも含む)は人気がない。日本人は判官びいきで庶民目線だという説があるが、こと大河ドラマに関してはこの説は成り立たない。
これらを総合すると「戦国時代に権力者が最終的に勝ち上がる」物語が好まれることになる。信長、秀吉、家康の関係性はよく理解されており、筋が追いやすいからかもしれないし、成功者気分に浸りたい人が多いのだろう。しかし、同じ成功者でも平清盛は人気がなかった。筋や時代背景がよく分からないと不評のドラマだった。勝ち上がるドラマでも背景が分からなければ支持されないのだ。
大河ドラマの人気がピークだったのはバブル期の1980年代だ。この頃の大河ドラマの題材には「ねね(おんな太閤記)」「無名の医師(いのち)」「政宗」「信玄」「春日局」などがある。このうち「いのち」と「春日局」は「成功者目線」という条件を欠いている。この2作と「おんな太閤記」はシナリオが分かりやすいことで知られる橋田壽賀子原作だ。この分かりやすさがヒットのもう一つの条件なのかもしれない。特に「いのち」は時代劇ですらないので、勝ち上がる物語とはメインターゲットが違っていることが伺える。
バブル崩壊後、大河ドラマは冬の時代を迎える。多分、制作者側がマンネリを怖れたのだろう。「炎立つ」は藤原三代を扱い、「花の乱」は応仁の乱を扱った。さらに「琉球の風」は琉球王朝を描いている。日本の正史の外を扱ったものは、いずれも惨敗した。「花の乱」と「いのち」の主役は同じ三田佳子なので、俳優はあまり視聴率とは関係がないのではないかと思われる。今回も井上真央が悪いというわけではないのだろう。そして、視聴者は戦国や江戸時代以外の歴史にはあまり興味がないようだ。
大河ドラマの視聴者が求めているのは、歴史ドラマではないのだろう。代わりに、テレビゲームのような爽快感を求めているのではないかと思われる。自分が戦国武将のような気分になって「勝てる」ものがよい。清盛は「画面が汚い」と嫌われた一方で、派手な騎馬シーン(派手さを演出するために、日本にはいなかったはずのサラブレッドが使われたりする)のある戦国ものに人気が集るのだ。9時台のTBSのドラマにも同じような傾向が見られる。勧善懲悪で最後には正義の味方が勝つようなドラマが好まれている。
もしくは橋田壽賀子作品のように「見ていなくても分かる」くらいのレベルのものが好まれるのかもしれない。こちらを支持するのは姑世代のおばさんだろう。近年、姫ものが2作あった。お嫁さんにしたいタイプの「篤姫」(宮崎あおい)は成功し、あまりお嫁さんにしたくなさそうな江(上野樹里)は失敗している。
花燃ゆはいくつかの点でこの類型に沿っていない。まず、権力者が成功する作品ではなかった。むしろ、維新の立役者たちが次々と死んで行く話だ。大河ドラマの視聴者は失敗した人は嫌いなのだ。次に明治維新という時代背景がよく分からなかったのだろう。さらに、群像劇にするなら橋田壽賀子を呼んできて、タイプキャストばかりの分かりやすい劇に仕上げる必要があった。もし分かりやすければ「歴史と違っている」などということを気にする人はいなかったかもしれない。爽快感ときれいさだけを求めている視聴者にとって「明治の子女が教育をつけて自立してゆく」というのはどうでも良いテーマだったのだろう。
大河ドラマを確実にヒットさせたいなら、戦国武将の成功記に限って放送すべきだ。これをできるだけ豪華絢爛に作成するのだ。しかし、当てはまる題材は限られているので、数年でマンネリに陥るだろう。
で、あれば橋田壽賀子のような脚本家を発掘してきて、古き良き家庭(男に権威があるが、それをしっかり者の女性が支えている)を舞台に分かりやすい人物を描いた、2〜3話飛ばしても筋が分かるような話を作るとよいのかもしれない。
大河ドラマの制作費は年間で数十億円単位だという。そこで優秀なライターが集って、日本の歴史を新しい視点から切り取ってやろうと意気込むのだろう。しかし、実際に視聴者が求めているのは、水戸黄門を豪華にして絢爛な騎馬シーンを盛り込んだようなドラマか、サザエさん一家を歴史の荒波に立ち向かわせるようなドラマなのだ。