2015年にはどのくらいのテロ事件が起きていたのか

パリで連続爆破事件が起きた。たいへん痛ましい事件なので、インターネット上ではフランスに連帯を示す人たちがあふれた。Amazonはフランス国旗を掲げ、Facebookにはフランス国旗と自分の顔写真を重ね合わせるアイコンを表示する人たちがいた。

一方、なかなか事件を取り上げない日本のマスコミに対して「特別放送を流さないとは何事だ」というようないらだちを表明する人たちも多かった。中にはTwitter上でコメントを出した著名なジャーナリストに対して「事実誤認」を指摘する人まで表れた。普段から「これだから日本のマスコミは……」というような気持ちを持っている人たちが多いのかもしれない。

この騒ぎは普段私達が持っている小さな差別意識を表面化させたように思う。先進国の事件を自分たちの状況と重ね合わせて「平和な暮らしが脅かされるかもしれない」という恐怖心を感じることはよく分かる。一方、中進国で同じような事件が起きても「対岸の火事だ」という認識しか持たない。「ああ、貧しくてかわいそうに」くらいにしか思わないのだ。

同じような事実認識は難民騒ぎでも起きている。トルコ・レバノン・ヨルダンには350万人以上の難民がいるが特に大きく報道されることはなかったが、ヨーロッパに難民が流れてきたころから「国際問題」として認知されるようになった。

試しに今年起きたテロを並べようと思ったのだが、多すぎてすべてを列挙することはできなかった。興味のある人は公安調査庁のページを閲覧するとよいだろう。

もちろん知らなかったものもあるが、テレビで報道されたものもある。にも関わらずこうした一連のテロで「通常放送を止めろ」という指摘が出なかったのはなぜなのだろうか。今一度考えてみた方がよいと思う。本当に国際情勢に関心があるのであれば、CNNやBBCなどの導入を検討した方がよいだろう。テロのたびに放送を止めるより、ニュー寸専門チャンネルを見た方がいい。テロはそれほど頻繁に起きているのだ。

  • イエメンでは恒常的にテロや軍への攻撃があり、多くの人が殺されている。内戦化しているため、個別の事件が取り上げられることはない。アフガニスタンでもタリバンの事件が多発しているが、こちらも混乱状態が定着しているため特に報道されることはなくなった。
  • アフリカ(サブサハラ)では恒常的に自爆テロが起きている。ナイジェリアではイスラム過激派ボコハラムが数十名単位の殺戮を複数回行っているが、特にニュースになることはない。子供に爆弾を括り付けて自爆テロ犯に仕立てることもある。人道的に見るとパリの事件より何倍ももむごたらしい。カメルーン、チャドでも自爆テロが起きているが特に報道されることはない。マリではホテルが襲撃され外国人が殺された。
  • アメリカでは銃乱射事件が多発している。あまりにも頻繁に起こるので「大事件だ」という報道は見られなくなっている。こうした虐殺は「通常の」殺人事件だと見なされていて、特にテロだという人はいない。
  • インド・パキスタン・バングラディシュでも事件が起きている。安保関連法案の審議途中には「法人保護」が題目になっていたのだが、バングラディシュで邦人が殺された時、政府は無反応だった。マスコミも特に大きく報じることはなかった。
  • 3月18日に、チュニジアのバルド国立博物館で銃乱射事件が起きた。22名が亡くなった。政府の重要な収入源である観光業へのダメージを狙ったものと考えられている。6月にはプライベートビーチが襲撃され38名が亡くなった。8月にも警官1名が死亡する事件が起きている。
  • 4月5日にカイロで爆弾テロがあった。警察関係者1名が亡くなった。2月にも連続爆破騒ぎがあり、1名が死亡していた。6月にもテロがあり検事総長が亡くなった。
  • 7月にはソマリアで中国大使館関係者1名を含む13名以上が殺された。イスラム過激派組織アル・シャバブが犯行声明を出した。アル・シャバブはケニアでも14名を殺害した。
  • 8月17日にバンコクでテロがあった。20名が亡くなった。ウィグル独立派の犯行が疑われたが、真偽はよく分からなかった。9月にも爆弾テロがあり2名が亡くなったが、こちらは報道されなかった。
  • 8月7日、アフガニスタンの首都カブールで爆弾テロがあり、警察学校の政党など50人以上が亡くなった。米軍兵士1名が含まれていた。アフガニスタンでは不安定な状況が続いており、タリバンの関与が疑われている。
  • 10月10日にアンカラでテロが起きた。20人以上が亡くなった。背景にはクルド人とトルコ人との間にある民族的な軋轢があると考えられている。
  • 8月6日にサウジアラビアで治安部隊員15人が死亡する自爆テロが起きた。10月16日にはモスクで銃撃事件が起き5人が亡くなった。こちらはISILの支部が犯行声明を出した。
  • 11月13日、パリとその郊外で同時多発的に爆弾テロがあり、129人が亡くなった。イスラム国(IS)の関与が疑われている。1月7日にもシャルリー・エブドが襲われる事件が起きていた。シャルリー・エブド事件では12人が殺された。