中古屋でWindows XPの搭載されたパソコンを買った。4,000円だった。インテルの「非力」とされるCPUであるATOMを積み、2009年頃に作られた「ネットブック」と呼ばれるタイプだ。
安いパソコンは気安く使える。折り畳んでそこらへんに転がしておけばよい。高いノートパソコンだと壊れそうで、そんな扱い方はできない。薄いノートパソコンはハードディスク交換をするためには、複雑な手順を踏んで分解をする必要があるが、このネットブックは裏のラッチを外すだけでハードディスク交換ができるらしい。
さて、問題はこれが「使えるか」どうかだ。もちろん、きっちり動くのだが、Windows XPはサポートが終っている。セキュリティホールがあっても塞がれないために、ネットにつないで使うのは「犯罪行為」だとさえ考えられている。
ウィルスは外部からやってくる。具体的にはメールとブラウザーである。ということで、標準メールソフトは使えなさそうだ。ブラウザーも備え付けのインターネット・エクスプローラー(ちなみに、悪名高いあのバージョン6が付いてくる)を使ってはいけないだろう。危険すぎる。
幸いなことに、Google Chromeはまだ最新版が使えるようだ。Chromeを導入すると、文書作成、スプレッドシート、写真の保管、メールの管理、映像の閲覧(YouTube)などができる。これらはすべてGmailのアカウントにヒモづいていて、15GBの容量が利用可能だ。細い回線では使い物にならないのではないかと思ったが、とても軽い。なんとか実用に耐えるくらいの速度は確保できているようだ。テレビ画面にフルサイズの映像を映すと、裁定レベル(144p)で再生された。CPUの影響というより回線が細いのが影響しているのかもしれない。
「Googleの世界」にファイルをアップロードするとウィルスチェックが実施される。ファイルは各地のデー多センターにバラバラに保存されるそうだ。ユーザーは自前でウイルス駆除ソフトを動かす必要がない。ブラウザーさえ最新版にしておけば、セキュリティ的には問題がなさそうである。
セキュリティのことを考慮するとXP上でできる作業はほとんどないのだが、実はそれほど必要でもない。Microsoft PCが Googleに乗っ取られたような形になっているのだ。
「乗っ取られた側」のMicorosoftはGoogleのウェブストアで無料版のExcelとWordを配布している。複雑なのは無料版ExcelとWordを使う為には、Microsoftのアカウントを取らなければならないという点だ。また、新しいパスワードが必要になるのだ。Googleのメールアカウントでログインすることになり、エリアスという形でoutlook.comのアドレスを取得する。Microsoftも様々なIDを統合しているために。Appleで見た以上の「ID問題」が起こる。このアカウントはWindows8あたりでは標準で取得しなければならないらしい。今後「IDをなくした」とか「実名が晒される」などという苦情が蔓延するのは目に見えている。職場でパソコンを使う人はたいへんだろうなと思う。
また、Microsoftを相手にするためには、Microsoft語を解読する必要がある。「Microsoftアカウントで、すべての無料サービスが解除されます」という不可解なメッセージがあるのだが「登録したら、無料のサービスが使えなくなるの?」という疑問が湧く。そもそも使っていないサービスを解除するというのはどういうことなのだろうか。多分、無料で使えるようになるくらいの意味なのだろうが、よく分からない。
いずれにせよ、MicrosoftのパソコンがGoogleに乗っ取られ、その上でまたMicrosoftが領域を作るというとても不思議なパソコンができ上がった。クライアントとして使うぶんには「十分使い物になる」というのが結論だ。パソコンが壊れてもデータはすべてサーバー上にある。写真のようなデータは、古いパソコン(こちらはインターネットには接続しないことにする)を転用したサーバーなどに入れておいてもよいかもしれない。
もちろん、問題もある。Googleドライブにアップするファイルを不正に読み込むウィルスというものが存在するそうである。こうしたウィルスに感染すると、サポートされていないOS上の駆除は「システムのクリーンインストール」しか手はなくなるだろう。Andoroid端末ではバイドゥが「正規流通するマルウェア」でユーザーの情報を盗み見していたことが話題になったばかりだ。つまり「Googleの世界」がセキュリティ的に万全ということはなさそうなのだ。
ブラウザのパスワード管理機能もどうやらかなり怪しい。Firefox経由で貯め込まれたユーザーIDとパスワードはしっかりChromeに引き継がれた。ということは、ブラウザーのデータはクライアントレベルでは「引き抜く」ことができるのだ。
それより怖いのは、Googleのパスワードが他から流出してしまうことだろう。試しにチェックしたところ、しっかり流出していた。今は変えてしまった古いパスワードが他サービス経由で流れたようだ。Googleのパスワードが流出すると、ほとんどのサービスのパスワードがリセットできる。データがすべて乗っ取られるということが起こるだろう。
Microsoftアカウントは「実名がばれて怖い」という書き込みが多い。しかし、よく考えてみるとオンライン上の活動の多くがGoogleに依存するようになると、実はGoogleアカウントが「実名」で、戸籍上の本名は「エリアス」みたいなものだという考え方もできる。Googleは、チャットやメールの内容、ドキュメント、見た映像の履歴、サイトの検索結果などすべてを握っている。プライバシーの侵害を気にし出すと何もできなくなる。
もちろん、古いOSを使い続けるということが安全とは言えないのだから「古いままでも使い続けられますよ」という結論にはできない。一方、新しいOSを使っているからといって安心とは言い切れない。パスワードは盗まれる前提で管理しないと、いざというときにたいへんなことになりそうだ。
多分、古い概念でパソコンを捉えている人は、パソコン教育というと、BASICのような教育用プログラミングや、OSやMicrosoft Officeの操作を教えるというようなイメージを持つのだと思う。しかし、それよりも重要なのはアカウントの管理の方法を教えて、セキュリティ教育をするということなのだろう。