ユナイテッドエアラインズが炎上している。乗務員を乗せるために席が足りなくなり4名を抽選で選んだのだが1名が拒否した。そこで警察を呼んで引きずりおろしたのだが、その時に怪我をさせたらしい。怪我をした痛々しい乗客の顔がYouTubeなどで拡散して大騒ぎになった。アメリカでは「人道的でない」という批判が多かったようだ。
だが、この問題が日本ではちょっと違う捉えられ方をした。たまたま乗客がアジア系だったのだ。そこで、この人がアジア系だったから我慢させられたのだとか、選ばれたのはすべてアジア系だった(そんな報道はないのだが)というような話が拡散した。
これがSNSによって拡散したというのは間違いがないが拡散速度は一様ではない。ビデオには翻訳はいらないので瞬く間に全世界に拡散する。ところがそのビデオについて日本語で何が話されているかということは英語話者には伝わらないし、英語話者がビデオを人権問題として批判しているということも日本人には伝わらない。
こうしたことが起こるので、ユナイテッドエアラインズはローカル言語を話すことができるスタッフを常駐させて、ユナイテッドエアラインズの立場を説明させるだけでなく、つねにどういうリアクションが起きているかをモニターさせるべきなのではないかと考えた。
実際にそういう文章を書いたのだが「はて」と思った。日本人がボイコットしても会社は別に痛くもかゆくもないのだ。いつ炎上が起こるかなど誰にもわからないのだから、そのためにスタッフを常駐させるのはムダということになる。実際に株価は少し下がったものの、その後持ち直した。最近、経営効率が上がっていて、ユナイテッド航空の株は「買い」というレーティングが付いているのだ。
ニュースでは「ユナイテッド航空」と伝えられたが、この路線は実はユナイテッドエアラインズではない。実はユナイテッドエクスプレスというローカル路線(実際にはいくつかの航空会社の連合体)なのだ。多分、ローカル路線は最低限の機体と乗務員で回しているのではないかと思う。ギリギリの機体数で運行するからオーバーブッキングも増えるし、乗務員のやりくりもうまくいかないのではないだろうか。だから、オーバーブッキングした客を下すことができないと、収益が下がってしまうことになる。CEOは従業員向けのメッセージで「乗務員はよくやった」と言っている。つまり、そもそも乗客が支払っている料金では満足なサービスは維持できないし、そのつもりもないのである。
アメリカの航空産業はLCCが台頭して大手航空会社を軒並み破綻させた歴史がある。紙ナプキンに絵を描いて経営合理化を成功させたという逸話が残るサウスウエスト航空などが有名だ。しかし、結果として過当競争が怒りオペレーションに無理が出ているのだろう。一方で、お客さんの方も「1日休んで次の日に搭乗する」ということができないほど忙しくなっていることがわかる。つまり地方が疲弊しているのである。
しかし、問題は効率化だけではない。最初から席が足りないことがわかっていれば、搭乗させる前に「席が用意できなくなりました」と言っていたはずだ。つまり、いったん客を乗せた後で「乗務員がやりくりできない」ということがわかり、慌てて乗客を引きずりおろしたことになる。やっていることがめちゃくちゃなのだが、社員の士気も落ちているのではないだろうか。
警察当局(武装した保安担当者という報道とシカゴ市警察という報道がある)の対応も問題だ。こちらについては「問題を起こした人を調べが済むまで休職にした」という情報がある。今の所、なぜそんなことが起きたのかという後追い報道はない。日本人は普段から黒人が警察からボコボコにされる映像を繰り返し見せられているので「黄色人種でも同じ扱いを受けるんだな」と思ってしまうだろう。職員は「自分が怪我をさせられるかもしれないから」という理由で過剰防衛した可能性もある。テロの危険性が増しているので緊張を強いられる現場だったのではないだろうか。
たまたま一つの航空会社が起こした不祥事は「アメリカという国そのものの不信感」につながる。だが、これを経済的に是正することはできない。乗客は安い航空会社を求めており、投資家は効率的な運用を求める。かといってアメリカ当局が「アメリカは人種差別のない安全な国です」というキャンペーンを張るわけにはいかない。問題を起こしたのは民間の航空会社であり、政府が謝罪するような問題でもない。つまり、経済が疲弊すると国の持っている信頼が崩れていってしまうのである。
しかし、航空会社はそもそも問題を発見できないし、発見できたとしても経済的に「謝るのが得か損か」という判断になる。ここで判断を誤ってしまうと、裁判を起こされて過剰な制裁金を取られる危険性があるし、オーバーブッキングした客に粘られたら収益率が下がるということになりかねない。
アメリカにとって「ソフトパワーが大切だ」と聞いたはつい最近の事だと思うのだが、それも過去の話になりつつあるらしい。いう言葉を聞いたのはほんの数年前のことだと思うのだが、トランプがもたらした「アメリカの分断」を見せつけられ、黄色人種が安全に旅行できないかもしれないアメリカという図式まで見せられた後になってみると「アメリカって没落しつつあるんだなあ」という印象しか残らない。国のイメージというのは意外と簡単なことで崩壊するのだろうなあと思う。