Twitterの不満の1/10でも生産的な活動に向けたら日本はすごいことになるだろうということを考えていたら「わがこと圏」という概念に行き着いた。今回はこれを延長してTwitterの議論が「生産的にならない」わけを考えたい。
ここまで、日本人は社会を「われわれ」と「あなた」に分けているということを説明してきた。「われわれ社会」では利益の創造や蓄積と分配を行うが、わたしとあなたの社会では不利益の押し付け合いが起こる。つまり「あなた」が多い世界では生産性が向上しない。
これはわれわれの世界では蓄積した利益を分配してもらえる可能性が高いが、あなたの世界で利益が出ても分配してもらえないからだ。あなたの世界はわたし(あるいはわたしたち)の世界と競合する可能性が高いが、そうでなくても比較利益が得られる。だからつぶしあいに発展するのである。
現在のTwitterは「わたしとあなた」の世界である。大きな「あなた」はウヨクとサヨクだ。基本的に行われているのは罵倒合戦で、罵倒がTwitter議論の基礎をなしている。Twitterは相手を罵倒するコストが低いために、罵倒がエスカレートしやすい。最終的には社会的な死まで追い込まれることさえある。相手が社会的に死んでもTwitter民には何の利益もないはずなのだが、なぜか「飯ウマ」な気分になる。それはわれわれが幸せを相対的に計測しているからだろう。
利益分配のない世界はつねにいけにえを必要としているという結論が得られる。
Twitterが荒れるのは日本に特有の現象ではない。アメリカのトランプ大統領はTwitterの言論空間の特性をうまく利用して大統領になった。行き詰まった白人層の怒りが源泉にあると言われているが、必ずしも貧しい人たちだけが支持者ではなかったようだ。複雑さに耐えられない人が多いのだろう。
これを個人主義の社会でも弱者たたきが蔓延しかねないと考えるか、あるいはトランプ大統領が集団主義化しているのかという点は議論が必要だろう。トランプ大統領はユダヤ人の娘婿を重用し、娘と自らの事業に利益誘導するというようなことを行っている。これは身内をひいきする韓国(集団主義的な傾向が強い)の大統領よりもあからさまだ。だからこそ理念で結びついている個人主義の人たちが反対するのである。各地で「われわれの大統領ではない」という拒絶反応が起きている。
この議論を延長してゆくとアメリカもかつては集団主義的な価値観があったのではないかという考察ができる。ヴォネガットのスラップスティックの中にはさびしかったアメリカ人が人工家族を作るという話が出てくる。つながりをなくしつつあったアメリカ人が個人主義に移行する過程で拡大家族を志向するという物語だ。すると、社会が複雑化すると理念を中心にした個人社会に移行するかもしれないというシナリオが作れる。
その意味では日本社会はその過渡期にあるのかもしれない。一方アメリカ人が「われわれの集団を第一にしよう」という価値観を選択したと考えると、集団主義と個人主義はゆれうごきがある可能性もある。ヒトは社会的な動物なので個人主義には耐えられないということがいえるのかもしれない。
日本人がバラバラで価値を創造できないといっても、もちろんTwitterが悪いわけでも日本人が無能なわけでもない。東日本大震災の時にはTwitterで有効な情報が交換された。これは地震というショックのために一時的にTwitterがわがこと圏になったことを意味している。もちろん流言もあったが「落ち着いてくれ」という言葉もあり、ある程度自治があった。
つまり、わがこととして発言する分には日本人でも生産的な会話ができるわけで、これはつまり現在のTwitterにそうした意識がないことを示唆している。だが、これが必ずしも悪いことだとは思えない。日本人の一大事業といえば侵略してくるアメリカを打ち負かすというものだったが、これは破綻した。集団主義傾向の強い北朝鮮がどうなっているかを考えると、あまり良い道とはいえないのだが、自民党の憲法草案を見ると「もう一度国民が一つの夢を追いかけたい」という倒錯した願望が見え隠れする。自民党の憲法草案は、時代においてゆかれつつある政党の妄想ともいえる。
このシリーズを書き始めたときに「生産性を増すためにみんなで話し合いを始められたらいいのに」というような感想を見た、残念ながらこの状態での話し合いは何も解決しないだろう。そもそも話し合いをする素地がない上に、議論は相手をつぶすために行われているからだ。どちらかといえば、みんなが議論に参加すればするほど、生産性を下げる方向に進むことになるだろう。Twitterに参加している人たちには「自分のやりたいこと」がないのだ。
ということで、Twitterはそこそこにとどめて、各人が手を動かすことを始めるほうが生産的になれる可能性は高いということになるのではないだろうか。