一日街を歩いた。計画停電があるかないかで街中びくびくしている。役所も報道情報とウェブサイトから情報を作っている。当の報道は、紙面や画面の都合で部分的な情報しか流していない。停電を前提としてガソリンや食料の不足(これはデマから来ている買いだめなのかもしれないが…)もある。電気が止まれば水道も止まる。下水道も止まるかもしれない。故に東京電力の責任は重大だ。
まず、最終的に分かった事実は「うちは計画停電実施地域」には含まれていないということである。これは「丁目」単位では分からない。契約番号を告げた上でどこのネットワークに入っているかを調べる必要がある。そして現場は情報を持っている。僕は契約番号を持っておらず、現地事務所で調べてもらったのだが、住所と近所の目印になる建物名を教えたら3分程で出て来た。それくらいの情報なのだ。
対応してくれた技術者によると、うちが地域に入っていない理由は次の通りである。送電ネットワークには階層がある。階層があるだけでなく、中継回路になっているものもある。今回の「計画停電」は途中でブレーカーを落とすようなものなのだが、中継回路のブレーカーを落とすと、末端まで全てが止まってしまう。故に中継点は階層の下位にあったとしても止められないそうだ。故に止まるのは「ネットワークの末端にある」地域だけだということになる。うちはたまたま中継点にあり、東京電力の公式発表ではグループ2に入っているのだが、いずれのグループにも入っていないのだそうだ。家の根元にあるブレーカーを止めると影響が大きいので、各部屋のブレーカーを落としているような感じです、と図式を使って教えてくれた。今回は(あとで分かることなのだが、この区は夕方から夜間にかけて停電が実施されたので、多分裏では準備していたのだと思う)入っていないということかと聞くと、この家は地域ではないですねえという。「グループの組み替えをしないかぎり計画停電はない」ということですかと聞くと、「そうだ」という。
千葉市内では稲毛区の西千葉から若葉区の愛生町あたりが計画停電区域に入っており、Twitterによると西千葉は実際に停電したようだ。花見川流域(八千代など)も停電区域に入っていようだ。都賀駅周辺は区域から外れている。実際にいままでのところ停電していない。
ところが、実際に被災(液状化して水道もやられているらしい)している浦安の情報が錯綜している。「停電区域から外せず」「交渉の余地がない」という記事がありTwitter上で非難が集りそうだった。しかしGoogleの地図では浦安は停電区域から外れたようだった。良かったなあと思ったのだが、文化放送によると「停電した」というリスナーからのメッセージが読まれた。隣の市川でも連絡なく停電したそうだ。
技術者は「ブレーカーを落とすように」と説明してくれたが、機械的にそんなブレーカーがあるわけではないのだろう。極めて機械的な操作に政治的な配慮が入るとオペレーション(つまり現場)が混乱する。かといって、被災地の停電は社会的に非難されるだろう。
多分「情報が錯綜」しているわけではないと思う。現場そのものが少なからず混乱しているように思えるのである。
このエントリーは多く読まれているようだ。しかしここで東京電力の非難で終ってはいけないということを改めて強調しておきたい。(いま読み直してみても随分感情的に思えるのだが、一応このまま残しておく)
最初の情報にほとんど無意識であっても恣意を加えると、その後そのストーリーを維持しなければならなくなる。情報発信側にあったのは「受け手は状況を理解してくれないだろう」という不信だったのではないかと個人的には考えている。
緊急時には情報がもたらすインパクトを考えて情報を操作してはいけないし、コントロールできているフリをしてはいけないというのがこの件の教訓だ。
ここまでが技術者から聞いた話。あとは発電ネットワークと送電ネットワークは区切られているということを教えてもらった。停電が戻って(復電というのか?)も「ブレーカーを落として上げたときに壊れないのであれば」機器に余分な電気が流れることはないのだそうだ。(この技術者の話を念頭に新聞広告を読む。分かりにくさに愕然とした。これ言いたいのは「事前にいろいろ言ったから壊れても文句言うなよ」にしか思えない)多分発電側のネットワークを守るために送電側を調整してるんでしょうねえと聞くと「ええそうですね」といっていた。
報道されているリストはすでに「サマリー」情報で、実際は地番単位で確認しないと本当のことは分からない。その晩見える範囲からは停電は確認できなかった。テレビはこのサマリー情報をまたサマリーする。故に「区域全体が停電します」となるわけだ。情報が根元から下流に来るに従って、どんどん大雑把になってゆくのがわかる。
地方自治体はかなり末端で情報を取得している。しかも、それぞれ独自に情報を収集しているようだ。区役所を2つ、政令指定都市の市役所、県庁を回ったのだが、2の区はそれぞれ違うリストを使って停電情報を把握していた。市役所(というよりは市民情報センターみたいなところだが)も独自で資料を作る。これはどうして一本化できないのか。なぜ、この期に及んでも情報を共有しようとしないのか。普段からこうした非効率なやり方をしているのだろうか。
ここからは推測。中継点にあたるネットワークがどれくらいの割合あるかは分からない。しかし、今回計画停電するのは、電気ネットワークの末端ばかりのはずだ。今回の区分けを変えるとは思えない。それは物理的なネットワークに依存しているはずだからである。故に「止まる地点は何回も止まる」ことになるだろう。しかしこんなことは発表できないだろう。なぜならばたまたま作られた電気ネットワークの構成に依存して地域に著しい不公平が生じるからで、土地の値段にすら反映する可能性がある。今回の計画停電に文句がでないのは「大抵の家が停電する」と考えられているからだ。もし「うちだけが止まります」だったらどう感じるだろうか。
故に今回発表されたあのリストが真実を反映しているかどうかは分からないのではないかと思える。良く類推すると時間内に技術者からの情報をまとめ切れなかったということだ。しかし、表面上の平等を保つために全ての地域(23区は入っていないわけだが)が掲載されたリストが作られたのかもしれない。そもそもこうした「大人の事情」が含まれていたとすれば、効率的な広報などできないだろう。加えて社会保険事務所と同じように「電気を作ってやっているのだから、お前が聞きにこい」という姿勢も見られる。計画停電が実施される地域への通報はなかったのだが、これは社会保険庁が「年金については受給予定者が問い合わせて来てください」と言っているのに似ている。実際には戸別に「お宅はどこに入っている」と周知しなければ情報は伝達できない。多分、電気代の請求書に書いて送ることはできるはずであるが…受付電話すら増設しないところを見ると、あまり費用はかけたくないのだろう。
どうやら今回使われている(そうして全く電話がつながらない)電話番号は普段から使われている受付電話のようだ。実際に計画停電が始まってからはNTT側が制限をかけている。止まってから初めて「うちはいつ復電するのか」と問い合わせする人が多かったのかもしれない。そもそも「自宅が対象になっているか」が分かれば不安は解消されたはずで、契約番号だけ教えてくれと事前にガイドした上で電話を増やせばこうした混乱は起こらなかったはずだ。
Twitterを見ると「千葉と茨城は被災地なので全県が対象外になった」と誤解している人がいる一方、予告なしに電気が止まったと言っている人もいる。自治体の問い合わせ窓口はパンクして、徹夜で対応をした地域もあったそうだ。ニュースによると3/15の計画停電実施区域は500万世帯だ。(そもそも、どのリストをもとにした情報かは分からない。第2グループの世帯数を独自集計しているのであれば、実際の停電世帯はもっと少ないはずである)日本の世帯数は5000万弱なので、1/10の家で停電したということになる。
事前に一生懸命システムを作り東京電力の情報を見やすくした人もいる。こうした事実を知り類推すると、こうした努力が「バカみたい」に見える。メディアの制限で記載できる情報が限られている。新聞ではXX区は「〜グループに入る」とされている。ウェブサイトは「X丁目」は「〜グループだ」という。でも実際には地番単位で分かれているわけだ。丁目別の情報を見てもそもそも意味がないのである。Twitterではこの時間も「情報はここ」のようなつぶやきが展開している。彼らの善意を返してあげてほしい。そして自分たちの地域が停電しないと分かれば無駄な買いだめをしなかった人も多いのではないか。
多分、発電ネットワークの過負荷を避けるために、ありもののネットワークをそのまま使い「落とせるところを落としましょうよ」という話になったのだろう。そもそもそこで情報のスキミングが起きている。対応電話回線はすぐに増やせるはずもない。ブース増設にはお金がかかる。社会保険庁の例でもわかるように臨時に電話オペレータを雇っても教育して、対応できるようになるまで何日かはかかるはずだ。彼らはこれを「まあ、いいか」と思ったに違いない。これがフォールバック(つまりあふれたものが外に行く事だ)する。フォールバックした先は地方自治体で、復旧対策を行う必要がある旭市も含まれており、情報伝達もできない。人々は諦めて自前で情報を共有しようとしているわけだ。これをそのままテレビが伝え、さらに混乱した。地震は国難と言っている人がいるが、首都圏の混乱は人災だ。
このエントリーの現実的な教訓は「情報は最も根元で入手しろ」だ。この場合、送電側の部署に聞くのが一番手っ取り早い。しかし、それでいいのだろうか。彼らは実務を行っている。問い合わせが殺到すれば実作業に影響が出るだろう。
東京電力は潰れない。地域の電力供給事業は独占されているからだ。故に彼らにはこうした失敗を未然に防ぐインセンティブはないのである。福島の件で、菅直人さんが100%潰れますよと言っているが潰れない。そしてそのことは彼自身も知っているはずである。社会主義体制は一長一短だが、これは最も悪い側面の一つだろう。
さて、ここまで書いて来て「結局東京電力の事務方の悪口」を書いて終わりにしていいのかと考えた。そこで、どうすべきだったかを考えてみる事にする。情報の流れを見ると、技術者から伝わった情報は、いったん本部に上がる。そこでいろいろな大人の事情による制約を受ける。またメディア上の制限もあり細かな情報がながせない。その限られた情報は無数の人たちの努力で見やすく加工される。しかしもともとの情報が限られているので正確にならない上に、変更がかかっているらしい。変更の理由は定かではないが、送電ネットワークの物理的事情に依存するのであればこれが組み替えられる可能性は少ない。すると、急いで発表した文書の間違いを修正しているのかもしれない。
情報的な問題点は明確だ。つまり途中で人の手がかかるとエラーが増えるのである。ということは解決策も簡単に見つかる。情報はあるわけだから、これを公開してしまえばいいわけである。東京電力はプレゼンテーションをしてはいけない。つまりHTMLやPDFに加工しない。彼らの役割は2つだ。1つは元データを一括して管理すること。できればバージョン情報を付ける。技術側の停電情報をメンテナンスしたら元データとヒモづける。これをボランティアが加工し見やすくする。もう1つは元データの配信が滞らないようにすることだ。こうした情報共有のやり方は、インターネットでは普通に行われる。例えばIPアドレスとURLを結びつけるネームサーバーはこのモデルで情報を管理しているのだ。
実際に歩いてみて感じた問題点は、この期に及んでも情報を他部署と共有しない行政と、「情報が欲しければ取りにこい」といいつつ情報を発信のキャパシティを確保しない企業に集約できる。「正確な情報が分からない」し、「発信もできない」のに全て自前でコントロールしようと考えてしまう。これに情報に関するリテラシー不足が重なると混乱が生じるわけだ。