昔、アメリカでマルチメディアタイトルの制作に携わったことがある。インターンとして学校からアサインされたのだ。多分、選ばれたのは日本人だったからだろう。そのマルチメディアタイトルは原爆に関する物だったのだ。そのときに驚いたのは、同世代の人たちが「Nuke is cool」だと考えていたことだ。核カッコイイくらいの意味合いだと思う。かなり感情的に反抗したのだが、英語がつたないせいもあったのか全く分かってもらえなかった。
ポイントになるのは、この人たちが特段強い反日感情を持っているわけではないということである。もし反日感情があればそもそも日本人など雇わない(インターンではあるがアルバイト程度のお金はもらっていたので)だろう。また、彼らはユダヤ系だったので、戦争に対する知識は平均のアメリカ人以上には持っている。さらに、マルチメディアタイトルを作るためにそれなりに勉強もしている。それでも放射能のあのマークをクールなシンボルとして扱い、ロック音楽に合わせたグラフィックスを作り「核カッコイイ」と日本人に悪気なく言ってしまうのだ。つまり、この言葉が日本人の心情を傷つけるなどとは考えていないことになる。彼らはかなり驚いたようで日本人を加えてしまったことに当惑していた。
今回オバマ大統領が広島を訪問したとき「アメリカは原爆投下を正当化している」と考える人が多かったようだが、若い世代はそこまでの知識を持っている訳ではない。どちらかといえば、スターウォーズのようなノリで捉えているのではないかと思う。日本人は広島・長崎を「悲惨な現実」と刷り込まれているので、そこに大きな文化的摩擦がうまれる。海外に出ている人は日の丸を背負っているような気分になりがちだ。
今回の件は「オバマ大統領が広島を訪問したことでアメリカ人の意識が変わった」などと捉えない方がよいと思う。アメリカは銃を所持する権利が認められている国なので「自衛のためには核を持つ」と考えることに抵抗感が少ないだろう。そもそも、覚えていないとか意識していない人も多い。殴った方は殴ったことを忘れてしまうものなのだ。日本人もアジア各国で行ったことを覚えていないが、被占領国はいつまでも覚えている。
あまりショックを受けないように、一般的なアメリカ人が原爆に対してそれほど強い意識を持っていないことは知っておいた方がよいのではないかと思う。それでも相手を変えたいと思うなら、なぜ原爆が馬鹿げていて危険な兵器なのかということを「日本語で」説明できるようにしておいた方がよいと思う。だが、これはなかなか難しい。日本はアメリカの核兵器に頼った自国防衛を行っている。被害だけをクローズアップしたり、一方的に「悲しいお話」にすることもできないのだ。
もっとも、公の場で日本人にあえて「原爆は正当だった」などという人は多くないと思う。唐突に政治の話をしたり過去の諍いを蒸し返したりはするべきではないというのが、ポリティカル・コレクトネスだからである。