右翼と左翼 – ネットワーク的研究

今回の安全保障関連の議論は「国民を二分した」と言われる。Twitter上では安倍首相を応援する側(仮に右翼とする)と反対する側(仮に左翼とする)に大きく割れた。そこで、ネットワーク上で右翼と左翼になんらかの違いがあるのかどうかを調べてみることにした。まず 10名のアカウントを集めた。ツイートの内容によって、右翼、左翼、そしてポジションなしに分けた。ポジションなしとは特に安保法案に関心のない人たちだ。

TwitterAPIを通じて彼らのフォロワーとフレンドリストを採取する。1度に取れる情報は200件まで(つまり全てではない)だ。それをSIFフォーマットに落とし、Cytoscapeというネットワークビジュアル化ソフトに落とし込んだ。10名の関係先だけで3,000ほどある。これでは扱いにくいので一方的にフォローしているかフォローされている先を削った。これで関係先を500ほどに減らす事ができた。これを主に手作業でまとめると下記の絵を得る事ができた。

twitter_network

当然のように「ポジションなし」同士には細かな連携はない。これは興味の対象があまり一致していないことを示している。しかしながら、全く興味分野が一致しないということはあり得ない。芸能人やニュースサイトなどが重複しているからだ。不思議なことに「右翼」同士にも緊密な連携はなかった。1つだけ目立った連携が見られたのは右翼に属する人とポジションなしに属する人の間に見られたアップル関係の重複だ。たまたま、二人の趣味が一致してたのかもしれない。この2人は相互フォロー関係にある。

ところが左翼サイドは状況が一変する。4人の間には共通の情報ソースが複数ある。試しにいくつか覗いてみたところ同じような内容(脱原発、反安保法案)が書き込まれていた。お互いが納得できる内容を共有し合っているものと思われる。良い言い方をすれば「左翼サイドの連帯は強い」と言える。悪い言い方をすれば彼らの世界は「閉鎖的で狭い」可能性があるだろう。こうした空間から情報を取っていると「全ての人が安保法案に反対している」と考えるようになっても不思議ではない。

よく考えてみれば、有名な人(例えば政治家や学者)を例外にして、右翼と左翼の一般人が罵り合う(もしくは議論する)という図式は見られない。右翼同士はフォローしあっているにも関わらず、共通の情報源を持っていない。つまり、お互いに議論をしあっている形跡も見られない。これは当然の話かもしれない。右翼は中国や韓国への蔑視つまり「ヘイト」で結びついているだけで、特に何らかの運動を共有しているわけではないからだ。

ここから得られる仮説は単純だ。いわゆる左翼と呼ばれる人たちを動員するのは簡単だろう。彼らの運動に同調すればよいからだ。同じ情報源を共有しているので考え方は同質だと考えられる。一方、右翼と呼ばれる人たちは既に自民党(ないしは次世代の党)などが中国や韓国と対峙してくれるものだと信じているので、特に働きかけをしなくても自民党を支持してくれるだろう。右翼層は民主党や社民党は売国奴の外国人に操られていると信じているのだが、最初からターゲットではないので気にする必要はない。

ここで問題になるのは、こうした人たちが全体でどれくらいいるのかが分からないという点だろう。いわゆるネトウヨと呼ばれる層は、実はそれほど大きくないことが分かっている。今回安保法案に反対した人たちも声は大きく、ネット上では固まって見えるが、どれくらいの人数がいるのか、実はよく分からない。多数派を占めると思われるポジションなし(あるいは無関心)層がどのようなメッセージに反応するかは分からない。全く政治に興味がない可能性もあるし、意思を表明していないだけということもあり得る。

安保法案についての議論が白熱する期間にはシリア難民の問題が起きた。左翼を人権に敏感なリベラルな層だと仮定すると、左翼層からシリア難民に対する同情や「日本も移民を受け入れるべきだ」という議論が起こっても不思議ではない。しかし、そうした議論は全く聞かれなかった。人権に対して進歩的な考え方を持っているというよりは、自分の価値観に合わないものを排斥しているだけ、なのかもしれない。

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