政治スペースのモデレーションをしていると時々「厄介な」質問がつく。それが中国と韓国問題である。Quoraの日本語版には弁の立つ中国系がいる。彼らは「理」で押してくるので日本人は太刀打ちできない。だが、韓国系・韓国人はあまり目立たない。このため日本人の立場だけが盛り上がり最終的に在日排斥などの「ヘイト」に結びついてしまう危険性がある。これが示威行動に結びつき「容認された」と最終的にアメリカのような直接行動に結びつきかねないのである。理論的には表現と物理的暴力は別物のはずなのだが実際には地続きになっているという複雑さがある。
厄介なことに政治的な表現と恫喝の間に明確な線引きがない。他人への恫喝は容易に行動に結びつく場合があり放置するのは得策ではない。恫喝している人の中にはこれは「我々を取り戻す戦いであり正当防衛だ」という人がいる。これがトランプ支持者の米国議会襲撃から我々が学んだ点だ。
最近、韓国の地方裁判所で日本政府が慰安婦に保証すべきであるという判決が出た。これについて質問がついた。案の定日本政府の主張に従って韓国を非難する回答がついた。中にはベトナムも韓国を訴えるべきであるとした人もいた。日韓関係に関する政治的質問には「ある構造」がある。心情のぶつかり合いというサーキットができるのである。
韓国に対する潜在的な蔑視感情がありこれが心情的ベースになっている。おそらく自分より「格下」であれば相手は韓国でなくてもかまわないのだろうが、それが自分たちに逆らってくるからけしからんというわけだ。これを補強するための材料探しが行われておりこの裁判がレーダーに引っかかったのであろう。
実は韓国の司法判断も心情によっている。心情を除いて質問し直したところ「国家賠償と国家主権」について解説してくれた人がいた。それをもとに朝鮮日報の記事を見つけた。
韓国の裁判所が従うべき義務はないが、国際司法裁判所(ICJ)はこれまで「主権免除」に立脚した判決を行ってきた。第2次世界大戦時にドイツの軍需工場で強制労働させられたイタリア人、ルイキ・フェリーニさんがドイツ政府を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の場合、イタリア最高裁はドイツ政府の責任を認めたが、ICJは2012年に主権免除論に基づきドイツの肩を持った。ある国際法の専門家は「当時のICJ決定でも『重大犯罪は主権免除の例外』という少数意見はあった」と語った。
「日本政府は慰安婦被害者に賠償せよ」
朝鮮日報は、ICJが「ドイツの肩を持って」主権免除に立脚した判決を出したと書いている。国際紛争に発展した場合「ICJは日本の肩を持つ」だろうが、心情的に受け入れられないと言っている。韓国は国際法上もこれまでの外交上も自分たちの判断が受け入れられないことはわかっている。また裁判所が日本政府の財産を差し押さえれば政府に悪影響を与えるだろうということもわかっている。でも心情はそうではないから国内では心情を優先しても構わないと言っているのだ。保守朝鮮日報は反政府系なので「政府がどうなっても別に構わない」という立場なのだろう。
革新系のハンギョレには対外的な影響については書いておらず極めて内向きに「勝利」を祝っている。まるで「韓国に裁判権がある」と認定すればそれが国際的事実になるというような言い方である。現在の革新系ムン・ジェンン政権はこうした極めて内向きな支持者たちにささえられており対外関係にはあまり関心がないということがわかる。
おそらく、韓国の司法が勝手に大使館や領事館などを勝手に差し押さえれば日本はそれなりの対応を行うべきだろう。経済的に緊密な結びつきのある日韓関係はかなり深刻なダメージを受けるというのも予想はできる。一方、韓国は国際的常識を逸脱した国であるという印象になるのだろう。
おそらくICJが戦争犯罪の賠償に関して国家司法に判断をさせないのは陸続きの欧州で個別判断が始まれば収拾がつかなくなることがわかっているからだろう。
テレビ作家が心情判断をベースにシナリオを書くのは問題ないと思うのだが心情判決を行う韓国司法には大きな問題がある。司法はテレビドラマや映画ではなく、心情同士のぶつかり合いはやがて物理的な衝突に発展する可能性が高い。
反応する日本の世論もまた心情的である。結果的に在日の韓国人を排除したいという人だけがこのニュースに反応し心情に合致した事実だけを拾いながらある種の言論空間を作り上げてしまう。そしてそれはなぜかある種の行動に向かい始める。「これはいけない」と言論の抑制がかかると本来できるはずだった総括もできなくなる。
おそらく「言論」に止まっている間はテクニカルには「表現の自由」の範囲で発言が許容されるべきなのだろう。だが、人間にはヒトとして敵と味方を峻別する本能があり容易にここを逸脱してしまう。敵を識別すると「排除」したがる人が出てくるのだ。
アメリカはついにSNSの枠を飛び出し実際に死者が出る事態になった。現在では支持者たちの間で「実は仲間内に裏切り者がいる」という内ゲバがおこっているそうである。MAGAコミュニティの一部はついにトランプ大統領にも非難の矛先を向け始めたという。敵意をコアにまとまった集団はやがて行動にまでエスカレートする。そしてそれを止めることは誰にもできない。ヒトの理性は限定的であり鎖を引きちぎる機会をいつでも狙っているのだ。