新潟のある地区から精神病院がなくなるという。国が精神疾患に関する保険の支払い方式を変えたからだそうだ。このため病院の経営が成り立たなくなり地域から撤退するのだそうだ。NHKのニュースでは統合失調症の患者を抱えた母親が途方に暮れていた。
ところがNHKはこのニュースをまともに扱えなかった。ネットへの権益拡大を狙うNHKは安倍政権に恩を売っておかなければならない。そこで忖度が働き「政権がこれを決めた」ことは伝えないのである。最近のNHKの困窮者のニュースは全てこのような調子である。忖度だ改竄だと言いたくなる。
だが、このニュースは奇妙なバランスで成り立っており破綻していない。NHKの職員はある意味優秀すぎるのだろう。
このニュースは「地震で家が倒壊した人」や「津波で家族を流された人」と同じような扱いになっていた。日本人はこうした天災系のニュースに慣れていて、これが成り立ってしまうのだ。考えてみると変な話なのだが、結果的に政権批判は避けられる。運が悪いかわいそうな人を哀れんで「ああ、うちじゃなくてよかった」という感覚を助長することになる。NHKは自分達の食扶持のためにこうした「運が悪かった人報道」を繰り返している。稲妻系と言ってもいい。雷に当たったのは運が悪かったが、雷はそうそう落ちてこない。
視聴者は何の行動も起こさないから、自分がこの「かわいそうな人」になった時には誰からも助けてもらえないことになるだろう。そしてそれを悟り静かに「迷惑にならないように」息を潜めて暮らすのだ。
数年前なら多分「安倍政権は長期政権だったのでその膿が出てきた」などと書いたのだと思うが、今はそうは思わない。その代わりにNHKは思考停止を決め込むことにしたんだなあという淡々とした諦めの気持ちがある。そしてその背後にあるのは「もう何も考えたくない我々」の諦めがあるのだろうなと思う。人生何が起こるかわからないからもうそんなことを考えても意味はない。だったら今を生きようと健気に決意してしまうのである。
NHKはもう議論の分かれるテーマは扱えないからジャーナリズムは成立しない。これは、センセーショナルなバラエティ情報番組でもない日本独特の何かである。が、NHKが扱えないのはニュースだけではない。
朝の連続テレビ小説「まんぷく」では、日本人がインスタントラーメンが作られるまでの話をしている。チキンラーメン開発が終わったので視聴率的には停滞しているようだが、このドラマには、みんなが知っているが誰も言わない「秘密」がある。萬平さんは実は台湾出身なのである。台湾出身なので憲兵に目をつけられたりGHQに目をつけられたりするというのが多分史実だったのだろうが、これを「差別に当たるかもしれない」といって避けたのだろう。
だが、戦前に台湾が日本領だったことは誰でも知っていることだし、安藤百福が台湾出身だったといっても別にそれはおかしいことでも恥ずかしいことでもない。見ている方が偏見をもっていて「自分は理解できるが、これを理解しない人もいるのでは?」と勝手にやっているだけだ。
大河ドラマ「いだてん」はもっとひどいことになっているようだ。NHKはオリンピックに向けた世論誘導に失敗した。視聴率は低迷傾向にある。加えてピエール瀧さんがコカイン吸引容疑で捕まり「過去から全てのシーンを撮り直す」そうである。ピエール瀧さんで放送した事実は消えないのである意味「歴史改竄ドラマ」になった。
だが、それでもみなさんのNHKは「全く問題がない無菌の日本社会」というありもしないリアルを追求せざるをえない。安倍政権には全く問題がなく、戦前の台湾統治の歴史もなく、出演者に私生活上の問題が全くなく、国民が一致団結して国家的プロジェクトを盛り上げるという幻想の「美しい日本」がNHKの中にだけは存在する。
この「オリムピックばなし」の失敗は、もはや日本人がみんなで喜べることがなくなってしまったことをかなり残酷に映し出していると思う。しかし、NHKはこの幻想を捨て去ることはできない。そうなると「ああ、あれも都合が悪い」「ああ、これも扱えない」となってしまう。結局もう自分たちでは何も考えられないだろう。何かを考えたらどこかで「地雷」を踏んでしまう。でもそれを地雷だと思っているのはNHKだけである。普通の人はそれを「現実」というのだ。
だが、これを見ていて日本人はNHKを笑えるのだろうかと思った。これは我々が望んでいる日本なのではないだろうか。何の社会問題もなく、政治家は嘘をつかず、みんなが健全な「丸い村」というのが私たちがNHKの中に見たい日本なのである。
そんなものはもうどこにもないのだがそれを見つめることすらできない。だからそれを他人と共有して話し合うことすら許されない。そう考えた時、私はとても惨めで傷つけられた気分になる。
“NHKの思考停止と考えないことを決めた私たち日本人” への1件の返信