TOKIOのメンバーが2018/5/2に記者会見を開いた。過去何回か病院を巡ったが「アルコール依存症」との明確な診断は出ていないそうである。メンバーが知っていて無関心ではなかったということと、無関心でなかったとしてもプロの助けなしでは問題の解決が難しかったということがよくわかる。
TOKIOの「山口達也メンバー」が会見を開いた。ニュースが飛び込んできてから半日空いたので最初はジャニーズ事務所が隠蔽しているのではないかなど周辺のことが気になっていたのだが、本人の記者会見を聞いて考えが変わった。
一晩経ってまた考えが変わった。テレビ局も芸能事務所も「世論を侮っている」と思った。
初動対応はまさにパニックだった。関係者は表向きは反省しているようなことを言っているのだが、頭の中ではこの騒ぎが大きくなって自分たちに損害が及ぶことだけを恐れているのだろう。
NHKが最初にこの問題を伝えたのは火元が自分たちの番組だからだろう。子供向け番組の出演者を管理していなかったせいで起こってはいけない問題が起きてしまった。内部調整して発表する時間はない。調整の兆候が見えた時点で週刊誌は面白おかしく伝えるだろう。そこでまずニュースとして伝え「自分たちは知らなかった」風を装ったのかもしれない。
「NHKが不祥事に対して隠蔽体質なのはむかしからですが、報道局からあがってきた性犯罪をジャニーズだから、微罪だからといって握りつぶしたとしたら、どうなるか。特に今回は加害者被害者が、子供たちを育む役割のEテレから出たことは絶対に見過ごせない。万が一それが変な形で露見して、やはり組織ぐるみで隠していたのかとなったら、国民から受信料不払いが巻き起こり、へたすりゃNHKがつぶれるほどの大変な事態になります」(NHK幹部)
TBSはメンバーの国分太一が司会者をやっていることもあり、表面上は「山口メンバー」を糾弾するような様子を見せつつ、どうにかして穏便に抑えたいという気持ちを持っているようだった。テリー伊藤さんは「相手のあることだから」と言って相手に寄り添うような風を見せていたが、実際には「ことを大きくすべきではない」ということを主張していたのが印象的だった。
印象的だったのは国分さんが「福島の野菜は」と唐突に言及していたことである。まず頭にスポンサーなどのことがよぎったのだろう。ところが、徐々に国分メンバー(あるいは国分司会者)も山口メンバーのお酒の問題を知っていたことが明らかになる。知ってはいたが大した問題だとは思っていなかったようだ。実はこのことがこの問題の本質をよく表している。彼らは多分お酒の恐ろしさを知らなかったのだ。
問題を複雑にしているのはジャニーズ事務所の「隠蔽体質」と放送局の「忖度」体質である。大勢の有力なタレントを抱えているジャニーズ事務所は常々「メディアを押さえつけているのではないか」という疑惑が持たれている。だから放送局はことを荒立てたくないと考える一方で、忖度しているように思われてもならないということで頭がいっぱいになっているのだろう。確かにその意味では脚本はよく練られておりそのあとの対応も含めてよくできていた。芸能デスクという人が全てを統括してバラバラな意見が出ないようにしていた。TBSの芸能ニュースにとってジャニーズ事務所は重要なネタ元に当たる。それを守ることが最重要課題である。
だが、実際にジャニーズ事務所が隠蔽しているのは事件やタレントの商品価値ではないのだと思う。
視聴者は明らかに煮立っている。政治でも同じような問題が起こっているからだ。Twitterの一部には同じ山口である別の人を指差して比較する人たちもいた。権力者は決して不祥事を認めようとしない。だから、不倫や性的な問題に関してはすぐに「社会的生命に対する死刑判決」が出るようになった。これが累積し「この類の問題を起こしたら一発退場」という相場が作られている。普段政治問題について面白おかしく伝えているマスコミは自分たちが「忖度し隠す側になった」として視聴者から襲撃されることを恐れている。政治もテレビ局もこの問題はもはやバスティーユなのだ。
だが、その裏にある認識は「視聴者はバカだから問題について深く考える頭はないだろう」という侮りである。彼らは普段そういう「バカな視聴者」を念頭に番組を作っているのだろう。
だが、本人の会見でわかったことはかなりショッキングだった。本人はアルコールの問題で入院していたのに帰ってきてすぐにお酒を飲み酩酊状態になったということがわかった。さらに本人には自分がアルコール依存におちっているという認識がない。
焼酎を一本空けたという証言があることから山口さんがアルコールに対して歯止めを失っているのは明らかだ。一升瓶か5合瓶かなどと言っていた人もいるが、どちらにせよ「たしなむ程度」で一本空くことはない。このことから、病院では酒量を管理されていたことがわかる。病院から仕事場に通っていたのは多分私生活でこの人がお酒の量をコントロールできなくなっていたからである。つまり、周囲の人は異常を知っていたということになる。
テレビ局が侮っているはずの大衆は実は冷静だった。これはアルコール依存であり周囲のサポートなしには回復できないという意見がTwitterで見られるようになった。つまり世の中には問題を抱えている人やそれを専門的知見からサポートする人が大勢いるのである。だから、相談さえしてくれれば良かったのだ。
このズレの原因は明らかに事務所にある。もともと同性愛志向のある男性が自分の理想の少年を売り出したのがジャニーズ事務所である。そのこと自体は責められるべきではないし、女性たちとの間に共有のシンパシーもあったようだ。ただ、このため少年として魅力がなくなった男性アイドルは放置されることが多い。そこに商品価値を見つけているのが女性たちである。成熟した男性に商品価値をつける。
ただ彼女たちは女性であるがゆえに、男性が持つであろう問題については知識がなくまた無関心だった。
夢を売ること自体は悪いことではない。例えば宝塚はある年代の女性を使って夢を売っているが、彼女たちには第二のキャリアがある。宝塚歌劇団はそれ以降の女性を活用することができないからである。宝塚から巣立って女優になった人は多く、このシステムがうまく機能している。
一方ジャニーズ事務所はその特有の嫉妬心から独立を許さない気風がある。だから中年になってもアイドル以外の選択肢が持てない。彼らが抱える特有な問題はSMAPの3人が「テレビから干された」ことからもよくわかる。
山口さんは会見の中で「事務所の誰に相談していいかわからず」「メンバーにも言い出せなかった」と言っている。私生活上の問題については放任されていたのだろう。
少なくとも、メディアコントロールも含めて会社のマネジメントは極めてずさんだったということがわかる。なぜ酒量が増えたのかはわからないが、本人がコントロールできるような状態ではなかったようなので、周りが親身になって止めるべきだった。これができなかったのは、大人の男性が当然抱える問題に対する事務所の無関心があるのではないだろうか。
ジャニーズとお酒という問題は実は珍しくない。草彅剛さんが全裸で逮捕されたという事件もあったし、最近では「錦戸メンバー」が瑛太さんを殴ったという事件が伝えられた。逮捕が伴わない事件は他にも起きているのだろうがテレビが伝えることは滅多にない。
この問題を「では誰が悪いのか」というところに落とし込んでしまうと、もちろん本人が悪いということになるのだろう。しかしながら、実際には関係性の中で起きていたことがわかる。イメージが損なわれるようなことはできれば考えたくないという気持ちがここまで問題をエスカレートさせたということは認めたほうがよさそうだ。
もし人間が完全に理性的な存在であればこれほど複雑なことを考える必要はない。だが人間であれば自分ではコントロールできない問題を抱えるのが普通だし、トップアイドルも例外ではない。だからこそ周囲がサポートすべきだし、サポートできないなら潔く手放すという選択肢も考えるべきだ。
人間には様々な衝動がありそれを理性で押さえつけることができるとは限らない。我々はこのことを十分に知っておくべきだし、それを感知したら周りは助けの手を差し伸べるべきだろう。だが我々は一人ではない。同じような経験をした人がたくさんいるのである。
テレビ局は「ジャニーズ事務所を怒らせたらどうしよう」ということを考える前に「人間は弱い存在だが助け合いによって救われることもあるのだ」ということを再認識するべきではないかと思う。