今月号のHarvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2009年 10月号 [雑誌]のタイトルは「論語」なのだが、冒頭にコラボレーションの重要性が書かれており、後半には脳についての短いエッセーがいくつかある。
ロデリック・W・キルギーとクリント・D・キルツのCognitige Fitnessでは、脳をクリエイティブな状態に保つための秘訣が書かれている。年を取ったからといって、脳が衰えるとは限らないそうである。秘訣は運動と新しい体験だそうだ。
この論文は、歩き回ること(Walk About)を推奨している。歩き回ること、すなわち運動そのものも脳に良いそうなのだが、その中に見つかる新しい発見が脳を活性化させるのだという。人間のミラー・ニューロンはまねることによって学習する。ミラー・ニューロンを使うと人間は実際の行動を起こす前に、物事を「見る」ことになる。すると、実際に行動したのと同じような効果がある。これが学習の一つの側面だ。見て回ることによって、新しい発見をすることで脳の学習回路を活性化することができるのだ。
もう一つ重要なのは「遊ぶ」ことの重要性だ。最近、報酬系の働きについてはいろいろな本が出ているので、おなじみの概念なのだが、楽しむことによって学習能力は強化される。そこそこ楽しめる遊びでないと苦痛を生み出す事になるのだが、あまり真剣に遊ばないと報酬系を満足させることはできない。時間を忘れることができるほど真剣に遊べる何かを持つ事が重要というわけだ。
さて、クリエイティビティというと右脳の働きが重要視されることが多いのだが、新しいパターンを発見するのは左脳の働きによるところが大きいそうである。既成のマインドセットから逃れるためには、人の話を聞いてみるのが効果的だという。このとき、同じような人たちとばかり話をしていても新しいパターンは見つかりにくい。だから、多様性のあるチームを持つ事は重要だ。同じ人たちとばかり話をしていると、一つのパターンの中で堂々巡りをすることになりかねない。
一方、右脳も新しいことに興味を持ち続けることで活性化されるのだという。
まとめると、常に新しいものに興味を持つ人たちが、クリエイティビティが高いのだということになる。ここまではだいたい、市販されている脳科学の本の内容をなぞるものになっている。目新しいのは、与えられた問題に対して、新しいパターンを見つけるという訓練だろう。問題にアプローチするのにモデルを作って友達と話し合ってみるというのがよいのかもしれない。
さて、続くガーディナー・モースの話は、理性的になれば問題の解決が容易になるかということについて教えてくれる。人間の脳はは虫類的な脳、動物の脳、人間の脳の3層構造になっていることを知っている人は多いだろう。動物とは虫類の脳は、報酬系(ドーパミンが理性を抑えて、欲しいものに対して突き進むことになる)と嫌悪系(扁桃体がキライなものから逃げる働きを持っている)の二つがアクセルとブレーキのような働きをしている。確かに、報酬系が暴走すると理性が抑制されて依存的な傾向を見せる。恐怖によって理性的な判断ができず、長期的には不利な判断をすることになりかねない。これだけを見ると、理性を磨いて、有利な判断ができるようにしたほうが良さそうである。
しかしこの論文によるとなんらかの原因で感情が損なわれると、判断そのものができなくなってしまうのだという。物事の優先順位が付けられず、すべての選択肢の中から一つのものが選べなくなってしまうのだそうだ。例えばどのようにファイルを片付けるかということを一日中検討しつつ、結局何も決められないというエピソードが出てくる。結局、我々は感情の働きからは逃れることができないのだ。
この感情は意識に昇る前に体を通じてフィードバックを送っているそうだ。これが、直感や無意識の正体なのではないかという。例えば1/00秒見た映像にも無意識に反応するそうだし、「これ何かおかしいな」と考えたとき、意識より先に手に汗が出るといった反応があらわれるそうだ。
瞬時の感情に捉えられてはいけないのだが、無意識や感情なしに判断を下す事はできないのだという。