NHKで外国人材受け入れのニュースをやっていた。プロパガンダとしてはよくできていたと思う。もしかしたらNHKには専門の人材がいるのかもしれないとさえ思った。いわばハズキ・ルーペ方式の宣伝手法なのだ。
ハズキ・ルーペは画面にハズキ・ルーペのスペックを表示させた上で、タレントに「ハズキルーペすごい!」と言わせている。経営者が直接演出しているそうだが、こうすることによってスペックがすごいと思わせる効果があるのだそうだ。つまりスペックを読まないで「細かい情報も見て検討したし、これが凄いこともわかった」と思わせている。CMは商品が売れればいいので、こうしたやりかたは非難されるべきではないだろうが、マスコミがこうした手法に手を染めた場合、やはり議論は必要だろう。
NHKは情報の中身だけを見ると両論を伝えている。だが、背景に困窮する地方の介護や農漁村の映像を入れ込むことによって漠然と「ああ、これで過疎問題や地方の人手不足が解消するのだな」と思わせることにも成功している。つまり、画像と情報がなんとなくずれているのだ。NHKがこれを意図的にやっているのか、それともそうでないのかはわからない。意図的にやっていたとしたら「大したタマ」だが、地方の状況をよく知っている人が「善意で」作っているのかもしれないし、移民によって生じる痛みについて「不安を煽りたくない」という親切心が働いている可能性もある。
日本の海外労働者政策が大きく変わり単純労働輸入に舵を切ったことは日経新聞も伝えている。これは従来の政策が失敗したことを意味している。それは地方創生と少子化対策だ。
地方創生は選挙のためのスローガンに過ぎない。実際には石破茂を追いやったり、片山さつき大臣を充てるくらいどうでもいい政策だ。さらに、給与所得者を締め上げて消費税をとるのだから(新しく4兆円から5兆円の増税になるのだからその分だけ可処分所得が蒸発する)少子化問題も解決できないだろう。このことに薄々気がついている地方は政府の新しい労働者調達政策を歓迎するはずである。
地方の窮状を救うためには外国人材の導入は避けられなくなっている。だが、正面から議論をしようとすると地方創生と少子化対応の失敗を認めなければならない。いわゆるアベノミクスの敗戦宣言である。だが、敗戦は認めたくないので、いつものように「何も変わりませんよ」と言いつつ議論しないままで政策を転換しようとしている。
NHKを見た地方の人はこの政策に反対する<けしからん>野党に反発心を募らせるはずである。彼らはNHKをみてこれが地方の介護人材不足を解消することを「知っている」からだ。都会のひとたちは地方の窮状が見えていない。いつものように無責任に反対しているだけだと反発を募らせるだろう。
空気さえできれば主体性のない日本人は簡単に抱き込める。NHKで細かい情報みて「知っているのだから」と考えつつ、本当は漠然と「地方の問題が外国の親切な娘さんたちによって救われるのだろうな」と感じてしまう。騙されるのではない。そう信じたいという気持ちがあるから積極的にそう信じる。やさしいNHKは背中を押してあげるだけである。
この主体性のなさと判断力の危うさは、いわゆる保守と言われる人たちをみれば明らかである。どこの国でも保守は移民の受け入れに反対する。しかし日本では安倍政権が彼らを「中国との戦い」にコミットさせている。安倍政権はどんなに革新的なことをやっても保守の政治家で通ってしまうのである。一度コミットメントを表明してしまうと少しくらい「あれはおかしいのでは?」ということがあっても深く考えなくなってしまう。フットインザドアという古典的なセールス戦術だ。だから日本ではリベラルな人たちが移民政策に反対し、保守と呼ばれる人たちが移民政策に賛成するというねじれが起きている。
この裏で不都合なことはほとんど報道されない。例えば、だが、実際には2017年だけで技能実習生が7000名失踪している(日経新聞)のだから、政府が新しい政策をきちんと運用しないことは確実である。
日本の国土はそれほど広くないのだから、外国人の不法労働者の取り締まりはそれほど難しくないはずである。また、手配業者にお金が行かないようにリクルートの時点で政府が直接対応した人しか受け入れないようにすればよい。やってできないはずはないがそれをやらない。それはなぜだろうか。政府に能力がないからできないのかということを立ち止まって考えてみたい。
地方の建設業などは人手が足りない。しかし、海外労働者にビザを与えてしまうと様々な権利が付随してしまう。国が認めたわけだから何かあった時には国が面倒を見なければならない。ところが彼らが「勝手に消えた」ことにすれば、政府は責任を取らなくて済む。そして人権救済などを訴えてきたり病気になったとしたら「不法入国だ」といって逮捕して帰国させればいい。
細野豪志のブログによるとアメリカはこれを「人身売買」として避難しているそうである。そして野党出身者がこれに反対すると保守と呼ばれる人が「アメリカに不法なことを言われても主権があるのだから無視すればよい」として反発する。安倍政権は保守という仮面をかぶっているので、本来ならば保守が反対するような政策を推進しやすい。実にうまい仕組みになっているのだが、いわゆる保守に引っかかる程度の人たちはそれに気がつけない。
失踪者は犯罪者なのだから最低賃金を支払う必要はないし、パスポートを取り上げて逃げさないようにしても問題はない。研修生が逃げ出したので「労働者」ではないので、労働法規上の権利が一切認められない。悪いのは逃げ出した彼らである。実際に政府に見つかって裁判にかけられると「逃げ出した」ことを泣いて謝る元技能実習生もいるという。
中国人の柳さんは、雇用先で火をつけられたが、十分なサポートが受けられないままで刑事裁判はすでに終わっており一度示談も済んでいたという。さらに入管施設では「ルールを破った」ということで十分な治療を受けていない。(ハフィントンポスト)かなりの人権無視だが、政府から言わせると「勝手に逃げたのだから自己責任」である。人権を言い立てる人への反発心もあり、こうした問題が正面から議論されることはない。
こうした意識の低い労働市場は経営者には天国のように見えるだろう。人権という「人間をわがままにする」ものを取り上げてしまえば、従順で文句を言わない労働者が手に入る。一般の労働者も自分たちに人権があるとは考えていないので従順に働いてくれるだろう。こうした違法労働への傾斜は旧来の日本が持っていたお互いを思いやるという暖かい労使協調関係の破壊に過ぎないのだが日本の伝統を戦時下の人権抑圧体制にあると考えている保守は気にしない。中国や韓国をバカにできさえすればあとはどうでもいいというのが今の保守である。本気で世界から尊敬されたいなどとは思っていないのだ。
政府と悪の経営者が手を組んでこうしたことを起こしていると思いたいのだが、実際にはそうではないかもしれない。確かに大手企業は便利な奴隷が調達できれば良いと考えているのかもしれないのだが、地方にはまた別の事情があるのだろう。「最低賃金などと言っていられない」という可能性もある。
海外から違法に労働者を連れてきて人権無視の働かせ方をするというのは麻薬に過ぎないのだが、いったん依存が始まるとNHKのような優しいメディアがそこに痛み止めの薬を処方する。これは政府やNHKに言わせれば治療かもしれないが、少し冷たい見方をすれば麻薬ディーラーへの協力であろう。
確かに地方の現状を見ていると痛み止めが必要だということはわかる。つまりNHKの手法は善意だと思いたい。だが、、巧妙になったこの手法はかなり危ないところまで来ているように思える。痛み止めはいつか効かなくなる。そのときにきっとNHKの人たちは責任を取らないだろうし、しれっと「何が起こったのか検証します」などと言い出すのだろう。
国土や郷土を思いやる気持ちがあるのなら、痛い思いをするのは誰かということをもう一度考えるべきで、本来はそういうことを考えられる人を保守と言っていたはずだ。だが、日本にはそういう意味の保守はたぶんもういないのだ。