先日、かなり年齢のいった大人の人と話をした。バックグラウンドはややエンジニアよりだ。そこで民主党政権の話になった。民主党は中国に機密情報を売り渡したのだという。2ch的な話題でちょっとびっくりしたのだが「真実だ」という。今回はこの件が本当かということを(つまり民主党が売国政権だったか)ということではなく情報リテラシーについて書きたい。先日自尊心について「学校で習わないのでは」と書いたのだが、そういえば情報リテラシーについても小学校レベルでは習わない。
民主党が中国に情報を売り渡したという情報はネットで確認できる。帰化人である福山哲郎参議院議員が防衛省の機密情報が廃棄されているという質問をしたが、実は機密情報のほとんどを廃棄したのは民主党政権だった。ところがそこから先は「この廃棄された情報は実は韓国に渡っており、韓国経由で中国に流れた」というのである。
つまり前者は事実なのだが、後者は憶測になっている。これが背景情報(質問した議員が帰化していたが積極的に公開していなかったこと)と相まって、民主党が情報を流したにちがいないというストーリーを構成している。
今回は「民主党は決して中国に情報を流さなかった」という説を支持しない。そのような証拠もないからだ。しかし、かといって「情報を流した」とも言えない。情報が憶測でバックアップされているからである。韓国は日米韓で同盟関係を結んでいるので、中国に情報を流したいのなら韓国経由にする必要はなさそうだ。なぜ福山議員が出てきたのかと考えると「韓国人の血が入っているから韓国よりだろう」という印象を与えたかったからだ。「いやあいつら(中・韓)は日本を恨んでいるから裏でつながっているにちがいない」という憶測を否定するものではないが、
かといって肯定する気にもならない。これは日本の研究環境に嫌気がさしてアメリカに渡った科学者や技術者をみればわかる。彼らが「日本に技術を売り渡すためのスパイだ。血は一生変えられない」などというと笑われると思う。
この話を面白おかしく聞きながら考えたのは、情報を精査する技術っていつ習ったのかなあというものだった。小学校では情報を精査する技術は習わない。教科書に書いてあることは全て真実だからだ。中学校でも高校でも習わない。教科書を疑えなどという人は誰もいないのだが、実は教科書は一次情報ではない。
大学で初めて「出典は一次情報に限る」と習う。多分社会科学などは調査などの一次情報を使うようにと言われるのだろうが、文学部だったので一次情報は戯曲などである。理科系でも一次情報を使うようにといわれるはずだが、要は実験の類なので特に二次情報に惑わされる可能性は低そうだ。自分で実験して一次情報を作り人もいる。
つまり、はじめて一次情報についてまともに考えるのはマスターレベルということになるんだなあと思った。出典を必ず明記するように言われ、これが二次情報だと出典として認められない。つまり大卒でも憶測が混じった二次情報に惑わされることはあるし、専門分野以外だと却って二次情報を真に受けたりする可能性も高まるかもしれない。いろいろと知っているので類推ができてしまう。
二次情報は憶測を含んでいるので、それを修正しながら読まなければならい。しかし現在のように隠ぺいが横行すると「大本営」だけを信用するわけにもいかない。するとさまざまな情報を総合的に判断してチェックするしか方法はないわけで、これは一次情報だけを使って論文を書く以上に難しい技術が必要になる。
この「民主党は売国政権説」事実を引き合いに出して、それを憶測に接木するという手法を使っている。つまり3つの情報与えて、AとBが真実だからCも真実であろうと言っていることになる。だが、いったんそれに疑念が湧くと「この人の言っていることって本当なのかなあ」ということになり、DもEも嘘っぽく思えてしまう。つまり情報リテラシーを持つことは大切だ。
このようにつらつらと考えてみて、日本人が噂を信じやすいのは、暗記中心の教育カリキュラムの影響が強いのではないだろうかと思えた。教科書を疑う必要はないのだと思うが、自分(やチーム)で調査する時間を入れないと一次情報という概念が学べなくなる。高校生くらいだと自主リサーチできるほどの判断能力は身につくと思うので、調査をカリキュラムに入れることは十分可能なはずである。
今回、話を聞いた人のプロフィールを出したのは、つまりいい大人でもリテラシーが育っているとは言えないということを説明したかったからなのだが、なぜそんなことを書いたのかというと「先生でも憶測を信じ込む可能性があるかもなあ」と思ったからだ。つまり、高校生に調査させたとしても、指導すべき先生が憶測や噂を排除できない可能性があるのではないかと思う。これはとても悩ましいなあと思った。