先日来、楽天モバイルについて一人で大騒ぎしている。だが一般にはなかなか伝わりにくいのではないかと思う。今日は「なぜ楽天モバイルで国内電話が無料になるのか」を考えるのだが実際に考えるのは楽天モバイルの意味合いである。
インパクト
日本郵政が楽天に資本参加することに決めた。8.32%というのは意思決定に参加できるわけではないがその他大勢の株主として無視もできないというくらいのレベルのプレゼンスだ。楽天モバイルが郵便局で買えるようになるのでは?などと期待されているが本当に大々的なコプロモーションが始まるという発表はない。今の所は「そうなるといいな」レベルの話である。
少なくとも楽天モバイルは基地局を増やしつながりやすくするための資金を獲得した。つまり日本郵政がお金を出して楽天モバイルに基地局を建ててやることになる。日本にはNTTと日本郵政という二つの半官半民の携帯電話会社が生まれたといってもよいかもしれない。
国内規格と国際規格の両方に対応した楽天モバイル
まずは現状を整理しようとして図を描いてみた。技術的に詳しくないので間違いを含んでいるのかもしれないのだが意味合いは単純だ。
つまり楽天モバイルには国内標準と国際標準の二つのサービスが含まれている。アプリの使い分けでこの二つのサービスを切り分けている。
楽天モバイルはもともとMVNOとして始まった。つまり国内電話網の間借りをしていた。ところがある時独自でキャリアをやりますと宣言した。ここまでは国内携帯電話ネットワークに組み込まれたという話である。
実際には楽天LINKと呼ばれる国際標準のRCSを含んでいる。そしてこのRCSを普及させるために国内電話は無料ですよというサービスをはじめた。ついでに最初の300万人までは1年間無料ということにした。その後1Gまでは永年無料と提唱したことで250万契約程度と言われていた契約が一気に300万人にまで増えたと言われている。
LINEも「ずっと通話無料」で伸びた会社である。日本人は永年無料というメッセージに敏感に反応するのである。
楽天モバイルは国際RCS網に接続できるサービスを国内で初めて実現したということになる。さらに国際通話が980円で使い放題になるそうだ。おそらくKDDIは国際電話ではこの価格に競合できないのではないかと思う。
さらに楽天モバイルのアカウントIDは電話番号なのでどちらのサービスもシームレスで利用できるというメリットがある。国際規格と国内規格が融合したところに強みがある。
LINEがやらなかったこと
もともと災害掲示板サービスとして着想されたとされているLINEは瞬く間に若年層に広がった。秘密は国内通話無料とメッセージングサービスである。通話無料で人々を惹きつけたと言われているのだが、おそらくこの過程で「文字情報を残しておけば忙しくない時に対応できる」ということに気が付いたユーザーが多かったのだろう。テキストメッセージはIT業界では広く使われていたが、無料ユーザーがメッセージングサービスの便利さに気が付いたことで流行が広がった。さらにエンジニアが興味を持たない絵文字を加えたことで爆発的に人気が高まる。スタンプを使うと文字を打たなくても気持ちが伝えられる。今では8,400万人が利用しているそうだ。
三大キャリアが設定する(実質的にNTTが主導している)電話料金があまりにも高すぎるのでデータだけで利用できるLINEには人気が集まったというのが発端だった。つまり三大キャリアの電話料金はそれほど高すぎたのである。
しかしLINEは自前でサービスをやっている関係上「セキュリティに甘い」という社会的批判に直面する。Wikipediaによると2012年ごろからそのような批判があったようだ。考えてみればNTTもダイヤルQ2問題などを抱えていたわけだが「電話を廃止しろ」という話にはならない。だが「若者向けのサービス」ということになると世間の目は厳しい。
LINEはID検索を制限したり電話番号を持っていな人はそもそもアカウントが登録できなくなるようにするなどの対策を行い結果的に国内電話網の中に閉じ込められてしまった。かつてはFacebookアカウントでも登録ができたがそれができなくなってしまったのである。
今では「LINEアプリ」でないと対話ができない8400万人独自規格の閉じたサービスになってしまった。このためスマホが使いにくい高齢者、レストランの予約や官公庁への問い合わせ、海外とのやりとりは難しい。
LINEはクローズドになりすぎた結果、高齢者を排除する形で8,400万人の巨大なムラが誕生したことになる。LINEは三大キャリアの一つであるソフトバンクに買収された。今後サービスの囲い込みが進むものと思われる。ソフトバンクは8400万人のムラを手に入れたことになる。
楽天LINKは電話番号というユニバーサルな規格を使うことでLINEを超えたことになる
三大キャリアはなぜ国際規格を「拒める」のか
ではなぜ楽天モバイルは広がっていないのか。彼らが絶対的に持っていなかったものがある。それが信頼である。
三大キャリアは国際RCSが国内に流入しないように+メッセージというサービスを導入する。「閉じたRCS」を作って出口を塞ごうとした。国内では圧倒的に強いが国際標準からは取り残されているという意味ではかつてのガラケーに似ている。三大キャリアにこんなことができるのは高齢者の信頼を得ているからだろう。
特に高齢者にとってみると国内通話(電電公社・NTT)と国際通話(KDDI)というのは信頼性が高い。若者も最初は親に携帯電話を買ってもらう。
一方で楽天にはどこか怪しい評判がつきまとう。当初繋がらないという話があり端末を配布して無料サービスにしてやっと1年間で300万人の加入者を獲得しようというところまできた。だがこのままで自前で基地局を立てるには資本が足りないというところだった。信頼を獲得するにはお金がいるがお金を稼ぐためには信頼が必要というのがジレンマだった。
総務省はおそらくそれがわかっているから楽天に新規参入を許しただけで積極的に支援しなかったのだろう。まさか彼らがコントロールしているはずの日本郵政が援助者になるとは考えもしなかったのではないだろうか。
足りないのは信頼(ブランディング)だけ
実際に端末を取り寄せてみた。一年間は無料サービスでありその後は1GB未満は無料というサービスに切り替わるそうだ。20,000円までは値引きしてもいいという総務省の規定があるのでこの端末は16999円引きの1円で購入した。
実際に国内通話もSNSも無料になるのだが使わない人が多いのだろう。試しに使ってくれたら5,000ポイントキャッシュバックしますよというサービスまでついていた。そこまでして楽天LINKを使わせたいのだ。
1月末には申し込み者が殺到したようで「そもそも申し込みができない」という時期が続いたがプロモーションとしては成功だったのだろう。300万人の無料枠は無事に埋まりそうだということである。無料サービスは4月7日で終了する。
実際にこのサービスを人に勧めて見たのだが「楽天など聞いたことがないから信頼できない」という反応だった。記事を読んでみてもネガティブなものばかりである。
実際には電子マネーにもなるので「タダだったら使ってみればいいのに……」とは思うのだが、やはりブランド力というのは侮れない。自分は使えると思っても他人に勧めにくいのである。確かにつながらないというニュースはあったので心配する声があるのもわかる。
繰り返しになるが信頼を獲得するためには資本力が必要だが資本力がないと信頼が獲得できないという壁があったわけだ。今後どうなるかはわからないが「あの郵便局で買える携帯電話」というブランディングに成功できれば、おそらく国内通話・国際通話共に大きな脅威となるだろう。
デメリット – いまだに使いにくい側面がある
ちなみに楽天の現在のサポート体制は非常に評判が悪い。高齢者が周囲のサポートなしで使うのは難しいかもしれない。郵便局が今の体制で高齢者サポートをやろうとしても窓口がパンクするだけだろう。
また、楽天モバイルは室内に届くプラチナバンドの割り当てが少ないという問題がある。総務省が許認可権を持っているのだがこれまで通りNTTに都合の良い裁定がでるのかそれとも楽天に門戸がひらかれるのかはよくわからない。つまり(特に)地方でつながりにくいという状態は変わらない可能性が高い。
さらに楽天モバイルはiPhoneの優位性は認めつつもできるだけiPhoneを排除しようとしているようだ。古いiPhoneが突然使えなくなったということもあったそうである。今でもやたらと「古いiPhoneで楽天モバイルを使ってみた」という動画がアップされている。裏返せばそれだけiPhoneを使って無料通話をやりたいという人がいるわけだが「そうはさせたくない」のが楽天なのである。
今後、楽天モバイルが台風の目になることは間違いがない。だが、ソフトバンクの事例もある。つまり楽天も10年後には囲い込む側に回っている可能性がないとは言えない。国内通話無料というサービスがいつまで続くのかなとも思う。IP網にタダ乗りできるLINEと違い基地局を整備しつづける事業を全国に展開するためにはかなりの体力が必要だろうからである。