電通の過労死問題で感じたのは東大の中にある格差だ。余裕のある家庭で育っていれば海外留学でもして、正当に評価してもらえる会社を探すこともできたかもしれない。外資に入った友達もいるはずで、どのように評価されるかわかるからだ。
報道によると高橋まつりさんは、一生懸命母を楽にさせてあげようと勉強して東大に入り、外の世界を知らないまま、使い捨てられてしまったことになる。最初から人的ネットワークが違っていたのだろう。この国が置かれている極めて残酷な事実だ。高橋さんが電通に入ったのはそれが「確実に親を楽にさせられる」企業だったからだろう。つまり、お金がなければ才能があってもブラック企業に使い捨てられてしまう運命から逃れることはできないのだ。
一方、電通の対応は見事だった。過労死問題ではTwitterを制限せず、ガス抜きをさせた。一方、テレビでは全く取り上げなかったので、騒ぎは1日で収まった。炎上が起こるのは初動でなんらかの対応をしてしまうからだ。
電通はネットでガス抜きさせてテレビ局に報道させないという作戦なのだなあとおもったのが、対応を間違えたようだ。フジテレビは高橋さんのTwitterを取り上げて「電通問題」を取り上げた。その後Twitterのアカウントが閉鎖させられていることが判明し「電通の圧力なのでは」と噂されることになった。
何もしなければ騒ぎは1日持たなかっただろうが、これによって騒ぎが大きくなるかもしれない。隠せば隠すほど広がってゆくのがネットだからである。
このことから電通は自己改革の意欲を持っていないことがわかる。この案件は世間で思われているような「人手が足りずに忙しすぎて起きた」事例ではなさすだ。成果が上がらない案件に優秀な人材を貼り付けた挙句に追い詰めて殺してしまったのだ。多分1日が36時間あれば、34時間程度働いていたはずである。同時期に数字を改ざんしてクライアントに報告するというようなことが起きており、電通のネット広告事業がインパール作戦化していたのは間違いがない。
しかし、ここで作戦をやめれば「負け」が確定してしまう。出口のない作戦なのだが、それを口にすることは許されない。そこで優秀な若者を犠牲にして乗り切ろうとした。戦前の陸軍と同じ構造である。
陸軍との一番の違いは敵がいないという点だ。日本陸軍の暴走を止めたのはアメリカだったが、電通を止めるGHQはいない。
今は消えてしまった高橋さんのツイートからわかるように、電通は多様性を排除している。年功性が幅を利かせていたようだが、多様なバックグラウンドを持った人は電通にはいつかないだろう。これは優秀な外国人だけでなく、留学経験のある学生などを含む。外資系では優秀な若者には破格の給料を支払う。移り変わりの激しいITマーケィングの業界に特攻志願する若者はいないだろう。
長年染み付いた慣行を中から崩すのは難しい。そこで外からの刺激が必要になる。だがそれは期待できそうにない。電通は人材には困らないが、犠牲になるのは多分、一生懸命勉強したが故に周りを見る機会がなかったような学生だろう。