先日「厚生労働省の検査妨害」という記事を読んだ。安倍政権はこれまでも文章隠しや統計改ざんを行ってきたので「ああまたか」と思える。だがこれに対してこんなTweetを読んだ。国立感染症研究所(以下感染研)が弁明しているというのである。
感染研が弁明を出しました https://t.co/rWhOtuyK3T
— 上 昌広 (@KamiMasahiro) March 1, 2020
上さんはこれまでも政府に反対の立場のコメントを出しているので逆に「ちゃんと弁明を読んでみよう」という気持ちになった。だがこれが壊滅的にわかりにくい。
前提の正確性を確保しようと思ったのだろう。「積極的疫学調査」の長々としている。だから「途中で唐突に北海道の件が出てくる」ように見えてしまうのである。さらに特定の媒体を名指ししているわけでもないので知らない人には何のことだかさっぱりわからない。読み込むのに労力がかかる。
さらにわかりにくい点がある。
- 治療の一環としての検査
- 積極的疫学調査
おそらく世間ではこの二つがごっちゃになっているのである。確かに新聞を売るために煽った記者も悪いがそれに対応できない感染研もほめらえたものではない。「わからないんだったら長く書いてやろう」と考えてしまうからだ。これでは余計わからくなるどころかそもそも誰にも読んでもらえない。だが論文慣れしている感染研にはそんなことは理解できない。
この話には続きがある。この文章を読んで最初は積極的疫学調査を「ああこれで市中検査を積極的にやるんだろうな」と考えた。Quoraでもそう解釈した人がいた。だが実はそうではない。鍵は25日の発表にある。
地域で患者数が継続的に増えている状況では、入院を要する肺炎患者の治療に必要な確定診断のためのPCR検査に移行しつつ、国内での流行状況等を把握するためのサーベイランスの仕組みを整備する。
新型コロナ対策 政府が基本方針を発表 全文
実は積極的疫学調査とは「濃厚接触者に対する調査」であり市中感染調査ではないということがわかる。政府はかなり特殊な使い方をしているようだ。
私も含めて「全容がわからないのでは作戦が立てられないではないか」と批判するものが多くテレビでもそのような批判がある。そこでやってる感を演出するために「いつになるかははわからないが準備しています」ということにしたのだろう。つまり、実は三つの異なる概念があり、それがごっちゃに語られてしまっているのだ。
- 治療の一環としての検査
- 積極的疫学調査
- 全容解明のためのサーベイランス
国民は不安を感じていて様々な情報が飛び交っている。電車の中では咳をした人に対してヒステリックな反応を起こす人も出始めているという。WHOがいらない人はマスクを控えてと言っているが「とりあえずマスク」の人はいなくならない。さらにはトイレットペーパーの買占めも起きておりこうなると意味がさっぱりわからない。
ところがこうした混乱を他所に感染研にシンパシーを持つ人がQuoraには一定数いる。プロフィールを見ると東大や京大と書いている。彼らは「このバカ(つまり私のこと)はよくわかっていないだろう」と決めてかかっているのである。彼らにとってみるとこうした不合理な行動の理由は明白で「あなたがバカだから」である。
だから「より噛み砕いて説明してやろう」とさらに冗長な文章を送りつけわざわざ該当箇所を太字にしたりする。また、「あなたほど知性のある人が」などとイヤミを書きつけてきた人もいた。日本の頭のいい人には「自分の行動がどんな心象を与えるか」ということにまるで無頓着な人が意外と多いのだなと気づかされた。おそらく共感力と受験では計測できる知性は別物なのだろう。
その頭で参議委員予算委員会を見ると、「議事録を出すか出さないか」で揉めていた。今までなら「政府が何か隠しているのでは?」と思ったのだがちょっと違った印象を持った。専門家委員は国民をそもそもバカだと思っているのかもしれない。例えば「治療法はないんだからPCR検査なんかしても無駄だがどうせ庶民にはわからないだろう」というような会話が交わされている可能性がある。これは正しい意見なのだが国民は反発する。おそらく官僚はこれまでもこうした発言を隠して概要のみを出してきていたのだろう。だが「ウイルスにやられても政府や医者に見捨てられるのでは」という不安が重なると「全部出せ」ということになる。そして出す出さないで時間を浪費してしまうのだ。
おそらく感染研は頭のいい理系の研究者の集まりなのだろう。このためプレスリリースの書き方が実に言い訳がましく伝える力が低いように見える。これを補うのはおそらく文系の政治家の役割であろうが政権は別の事情をたくさん抱えていて他人の心配などしてられない。結局不安を持った人が不合理な行動に走り、それを見た専門家が「バカだなあ」と言ってまた国民を怒らせる。
このサーベイランスの話さえも総理が唐突に小中高等学校・特別支援学校の休校措置を発表し忘れ去られてしまっている。総理も検査についてはよく理解していないようで途中で答弁が変転した。それをまた朝日新聞が面白おかしく切り取り野党が騒ぐ。悪循環だ。
先月29日の自身の会見では、医師が必要とするすべての患者が受けられる「能力を確保する」と述べたが、同委では「全力を傾けたい」に修正。その後の答弁で「確保する」との言い切りに戻った。
PCR検査、揺らぐ首相答弁 能力を確保?全力傾ける?
これを読んでわかるのは「総理はよくわかっていないので実際の体制をみないとなんともいえない」ということだけである。
理論的に考えて全容解明ができなければ今後の対策は立てられない。政府は約束したように早急にサーベイランス体制を整えて「できるところからでも」やるべきである。だがおそらく官邸(具体的には総理大臣だが)には問題把握能力がなくもしかしたらガイドラインに何が書いているのかを把握していないのかもしれない。感染研も論文は上手に書けるのだろうが何をどのように書くと国民に訴求できるのかということはわからないようである。
細かく落ち着いて見てみると実にくだらないことである。感染研は「厳密に論文調に書けばオシゴトは終わりで、あとは理解できない素人が悪い」という職業病にかかっている。そしてさらに恐ろしいことに「お前がバカだから理解できない」と追随する人も多い。おそらく政権も野党議員もそれぞれ別の症状にとらわれているのだろう。あるいはウイルスは封じ込められても、我々は慢性集団無能症候群の治療薬を見つけることはできないのかもしれない。