中国艦船の日本への侵攻 – 2つの異なるストーリー

人々がいかに簡単にストーリーを作るかについて考えたい。

NHKは中国艦船が日本の領海に侵入したことを伝えた。なんだか分からないが「怖い」という印象が残った。だが、調べてみると全く違った情報がいくつも出てくる。マスコミは伝えていないわけではない。後に中谷防衛大臣が演習について発表した。だが、扱いが小さかったせいで漠然とした印象しか残らない。

もともと、沖縄近海ではインドとアメリカが軍事演習を行っていたようだ。両国とも中国と対峙しており、中国を牽制する意図があるものと思われる。日本はこの演習に最近迎えられたばかりだ。つまり、現在日米印の合同演習が展開中なのである。訓練は日米印共同訓練(マラバール2016)と呼ばれる。つまりこれは中国を刺激する作戦であり、中国軍が牽制(あるいは情報収集のために)艦船を送っても何も不思議ではないのだ。もっとも、わざわざ領海をかすめているのだから牽制しているのは明らかだ。日本は防衛しかしないので舐められているのは確かなのだろう。

このことは2つのメッセージを与えうる。一つは安倍政権が余計なことをしたおかげで中国を刺激したというもの。これだと「安倍政権のやり方は日本を危険に晒す可能性がある」という結論になる。安倍首相は憲法第九条を改正しようとしており、緊張は増大することになるだろう。もう一つはなぜだか分からないが中国が日本の領海を侵犯したという印象だ。中国の脅威が高まっており、周辺諸国が一体となって警戒すべきだというストーリーになる。

どちらが正しいとも言い切れない。つまり、これは車の両輪である。つまりこれが国際間で緊張が高まるというのはこういうことなのだ。だが、たいていの人は答えを求めたがるし、両輪を処理することはできない。

領海をかすめた中国軍も最初から答えを準備していたようだ。領海を通っても平和的な利用であれば特に許可を取ったりする必要はないということだ。詳しいことは分からないが(ニュースは本当に知りたいことは教えてくれない)西洋諸国が言い出したことらしい。だから「法を重んじる」建前の日本政府は抗議できない。つまり「中国さん、それはちょっとどうかと思うよ」と言うことしか言えないのだ。政府の発表はこの事情に即した物となっており、従ってマスコミもその線で報道している。

これに関するネットの対応は面白い。領海への艦船の侵入と領土に上陸したというのは全く別のことなのだが、同一視している人たちが多い。これに尖閣諸島の漠然とした印象(こちらは、中国が自分の領土だと主張しているので、扱いは別であるはずなのだが)がごっちゃになっているらしく「中国が勝手に領海に侵入して良いと主張している」などと考えている人もいる。

政府は最初から「領海に入っても違法じゃない」ことを伝えていて、全ての新聞社がそう書いている。だが、ネット世論はそれでは納得せずに「弱腰だ」などと騒いでいる。テレビでもたびたびニュースを流しているが扱いが短いので「こんな重大なニュースなのにマスコミが伝えないのは、隠蔽しているのでは」と騒いでいる人もいる。だが「法的に問題がない」ものについてどう騒げばいいのか。「政府は毅然とした対応をすべきだ」とコメンテータがしたり顔で言えば満足なのだろうか。

ネット世論は「中国は日本を侵略しようと考えており、安倍政権が毅然と対応してくれている」と信じ込んでしまっている。だから「ただ、中国艦船が入ってくるのを傍観していました」などといおうものなら大騒ぎになるわけだ。いったん火をつけたナショナリズムはこうやって手がつけられなくなってしまうのである。

日本人はシャイで内向きなので、愛国デモを起こして中国企業を打ち壊したりはしないだろう。代わりに自国の政府にプレッシャーをかけることになるはずだ。

確かに中国艦船が日本に侵入したのは由々しきことなのだが、もともと中国を刺激するようなことをしているわけだから、報復行動は予想の範囲内だろう。もしカウンターアクションを想定していなかったとしたらそれこそ国防上の大問題である。少なくとも、国内世論に根回しして、国民が動揺しないように情報を提供すべきだった。そもそも中谷防衛大臣はなぜ何も想定していなかったのか。この無能な責任者をそろそろ問いつめる必要があるのではないか。

 

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