朝日新聞が記者クラブ問題について書いている。「表現の自由」国連報告者がやってきて、日本の記者クラブ制度には問題が多いと警告したらしい。記事によると「ジャーナリストの多くが匿名を条件に面会に応じた。政治家からの間接的圧力で仕事を外され、沈黙を強いられたと訴えた」のだそうだ。
内部ではきわめて深刻な問題が起きているようだ。どうやら新聞社は政治家から「恫喝」されているらしい。と、同時に新聞社は記者クラブを通じて特権的な立場にある。恫喝もされているが、同時に恩恵も受けているという複雑な状況に置かれているようだ。
問題だと思うのは、朝日新聞が記者クラブに関してさらっと書いていることだ。デービッド・ケイ氏は記者クラブの排他性も指摘し「記者クラブは廃止すべきだ。情報へのアクセスを制限し、メディアの独立を妨害している制度だ」と批判したとしている。朝日新聞はまるで人ごとのように書いている。知らない人が見たら「朝日新聞は記者クラブに加盟していないのではないか」と思うのではないだろうか。かといって、記者クラブ制度を見直しますとも書いていないし、反対に「記者クラブはメリットがある」とも主張していない。朝日新聞のこの記者はケイ氏のレポートをどのような気持ちで聞いたのだろうか。
もう一つの記事でも報道の自由は失われつつあるらしいことが分かる。報道の自由度ランキングで72位に転落したという。10年には11位だったというから短い間に大幅に落下したことになる。朝日新聞はこちらも他人事感満載で伝えている。日本の民主化度は高いので、ジャーナリズムが足を引っ張っているということになる。
新聞社は(少なくとも表立っては)異議を申し立てることができない。記者クラブを通じて優先的に政府から情報を分けてもらっているからだ。だからこそ朝日新聞は中立を装って応援団になってくれる人たちが外野で騒いでくれることを期待しているのかもしれない。
新聞社は特権的な地位を享受しながら、政治家の圧力から逃れることはできない。政府が何を隠蔽しようとしているのかは分からない。冷静に考えてみると、そもそもそれが必要なことなのかすらも不明だ。有権者は政治にはあまり興味がなさそうだから、何を伝えられても選挙結果には影響がなさそうだし、政府に不利な情報そのものはネットにあふれており、断定調で書かれている。
この不自然な状況にはいくつかの問題がある。
第一に、国際的な悪評が形作られることになる。この手の調査団に「匿名で」悪口をいうジャーナリストが増えるだろう。日本人は自浄能力がない。まるで中国か北朝鮮のようだ。それは日本の民主主義に対する懸念ではない。日本人そのものへの懸念だ。
マスコミの不信感も高まっている。つい最近も「NHKは鹿児島の震度情報を隠蔽した」と書いたら軽く「バズ」った。きわめて不健康な状況だ。マスコミ離れが加速しており、信頼度も下がりつつあるのではないだろうか。曖昧な状況ではデマが拡散されやすい。曖昧な情報は補間され、好きなように判断されるのだ。これは社会の安定性を大きく損なう。人々は「読みたいニュース」だけを真実だと考えるようになるだろう。政府に不信感を持っている人たちは政府批判を読みたがり、別の人たちは政府を妄信する。いうまでもなく、どちらも間違いだ。誰かがバランスの取れた報道をする必要があるわけだが、インターネットからそういうメディアが出てくるのはまだまだ先のことになりそうだ。そもそも、真実は曖昧なものであり、ネットでは人気がないからだ。
最後にマスコミは政府が作ろうとしている非民主的な状況に加担することになる。「内心は嫌々従った」と後で言い訳するのかもしれないが、国民を裏切ることになるだろう。政府が戦争をしたいのか、国民を大企業の奴隷にしたいのかは分からないが、権力の共犯者になってしまうということだ。戦前の政府と同じ状況だ。
これを打開するために新聞社がやらなければならないことは2つある。第一に政府からいかなる恩恵も受けないことだ。軽減税率の対象から外してもらい、記者クラブ制度も廃止すべきだ。安倍首相とお寿司を食べに行くのもやめたほうがいい。次に新聞社は自分たちが公平中立な第三者であるふりをやめるべきだ。新聞社は問題の渦中にあり、状況を作るのに加担している。