前回はパルコがなくなるのを見て「日本のファッションは砂漠化している」などと嘆いてみたのだが、実際にはもっと大きな変化が起きているようだ。いくつか見てみたいポイントはあるのだが、一番注目すべき点は、日本の流通が実は大胆に合理化されているというちょっと意外な事実である。
一般に、日本のサービス産業や流通はIT化が遅れており生産性の向上も進んでいないと考えられている。確かに産業という側面から分析するとそうなるのだが、消費者を加えると全く異なった実態が見える。
日本のアパレル産業の市場消化率は50%弱なのだそうだ。残業して一生懸命作った服の50%は売れ残ることになる。売れ残った服は中古市場に流れる。ほどいて毛布などの原料にする、機会を拭くウェスとして利用する、東南アジアに輸出するというのが主な処理方法になるそうで、これを専門に取り扱う業者もある。燃やされているものもあるはずだが統計には出てこない。
一方、急速に中古市場が立ち上がりつある。実際に中古ショップを見てみると「未使用品」が売られていたりする。寂れたファッションビルが「売れ筋」と考えられる画一的な商品に高い値札を付けている一方で、ユースドショップに豊富なデザインが色柄が安い価格で売られていることも珍しくない。
だが、新古品の出先はリユースショップだけではないようだ。アプリを使ったオークションサイトなどが複数立ち上がっている。総合通販サイトも中古品を扱っている。さらにファッション通販サイトも中高品を扱うようになった。
同じような状態は中古車市場にも見られる。軽自動車が過剰生産され新古品市場が発達しつつある。実質的な値下がりが起きているのである。
つまり、アパレル専業の会社や自動車業界が市場を読まずに産業ゴミを量産する一方で、消費者はIT技術を駆使して自分が欲しいものを探しているという実態が見えてくる。
これが顕在化しないのは政府統計が古い概念のもとで組み立てられているからではないかと考えられる。いろいろな人が推計を出しているが「どれくらい中古化」が進んでいるかということはよくわかっていないようである。「もはやデフレではない」という統計も新品だけを対象にしているはずだ。小売物価統計調査の概要の説明には次のようになっている。
調査店舗で実際に販売する平常の価格を調査する。ただし,特売期間が7日以内の安 売り価格,月賦販売などの価格及び中古品などの価格は調査しない。
一方、産業界には「新品が売れなくなった」という認識はあるようで、日経新聞までが中古市場に関する記事を書いている。
アパレル業がいびつになってしまった原因はいくつかありそうだ。アパレルは中小業者が多い。さらに、毎年流行が入れ替わり去年の服は今年は着られないという刷り込みがある。さらに、情報産業(ファッション雑誌など)が盛んに消費者を教育するので、ファッション好きの消費者は豊富な知識を持っている。彼らはITに対するスキルも業者より多く持っている。
女性に対して調査したところクローゼットの7割は着ない服だったという統計もある。ほとんどの人は着なくなった服を単に捨ててしまうのだそうだ。アパレル商品の半数が売れないという統計も考え合わせると、日本で作られた洋服のほとんどが捨てられており、実際に使われるのは定番の商品のみということになる。定番品だけしか売れなくなるのもよく分かる。結局、それ以外はゴミになってしまうのだから、最初から買う必要はないのだ。
一方で、生産性の低下についてはあまり嘆く必要がないという気もしてきた。供給側が過剰生産に陥っている原因は、ITへの支出を怠り、市場で何が起こっているかを知る手段がないからだ。政府も統計を取っていないので、何が起きているのか把握している人は誰もいない。
だが、消費者は豊富な商品知識とITスキルを持っているので、それなりに楽しく自分にあう洋服を選ぶことができる。消費者がバリューチェーンの一環をなしているというのが新しい視点かもしれない。
ただし、供給側からはアービトラージの機会が失われ、今までの仕事の一部が無償化(ユーザーが流通に参加しても給与は発生しない)するのでデフレが進行するのはやむをえないのかもしれない。