サラリーマンは二級社員になる

今回はトランプ大統領が出したイスラム地域からの流入禁止とサラリーマンの将来について考えたい。「全く違った話ではないか」と考える人が多いかもしれないのだが、実際にはつながるのだ。つまり「閉じた国」で既得権益のある層を守ると国は衰退するのである。

急速に閉じつつあるアメリカ

このブログを書き始めた頃、アメリカに憧れていた。日本はITすらまともに使いこなせず、移民も排斥しているが、アメリカは世界から才能を惹きつけていた。リチャード・フロリダのクリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求めるのような本を読んで本気で羨ましいと思っていたし、ダニエルピンクがいうようにハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代が来ると思っていた。

だが、その見込みはたった数年で揺るぎつつある。「1980年代のアメリカ」が息を吹き返し「外国がアメリカの製造業をダメにしている」というような主張がみるみるうちに支持を広げた。そしてトランプ大統領は本当にいくつかの排斥措置を実行してしまった。

米国務省は28日、BBCに対して、イラク、シリア、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンからの渡航者はすべて、二重国籍者も含めて、米国への入国が当面禁止されると話した。有効な査証(ビザ)を持つ人も含まれるという。

日本では移民問題を人権と関連付けて考える人が多いのだが、実は経済問題でもある。移民の中には教育にお金をかける人たちがいる。知識は持って逃げられるからである。アメリカのIT産業を牽引しているのは中国人とインド人だった。さらに「クリエイティブ都市論」で示されたように、才能のある人材は、開けた場所を好む。つまり自由は人々を惹きつける。東京のように外国人が家を借りるのに苦労するような場所よりもロスアンジェルスのような多様性のある街を好むのである。

自由は人を惹きつけることを知っているカナダ

ということで、カナダのトルドー首相が「トランプに排除された人たちを受け入れる」といったことは、人権に配慮したという側面もあるだろうが「優秀な人材が必要な産業はカナダに移動すべきだ」というメッセージでもある。つまりシリコンバレーは北に移ったほうがいいですよというメッセージになっている。

トランプ大統領が選択したのは製造業に強いアメリカなので、中国やインドあたり価格で競合することになる。実際にトランプ政権の貿易担当者は中国シフトだ。さらに、IT産業を直撃しそうな就労ビザ政策の変更もささやかれている。これは現在日本が経験しているようなデフレへの道である。日本はIT化が遅れ、未だに製造業が地域の就職の最大の受け皿になっている。当然人件費では中国に勝てないので、非正規雇用で補うか、外国人を安く入れて使いたおすという方向の議論が起こる。アメリカも日本を模倣した移民政策をとり続ければ、自ずと賃金の下落が起きるだろう。一部では「ロボット化が進むだけ」という観測もあるようだ。つまり外国人ではなくAIが使われることになる。そのAIはトロントあたりで開発されているのかもしれない。

実は高技能移民を議論し始めている日本

さて、実は安倍政権は移民受け入れに積極的である。安倍政権の移民政策は二つある。一つは高技能移民の導入で、ホワイトカラーエグゼンプションはこれに伴った措置だと考えられる。もう一つは労働者クラスの移民でこちらは「研修生」として受け入れて、子供も作らせず定住もさせず(定住すると福祉給付の対象になる可能性がある)に一定期間だけ働いてもらおうというような制度だ。

実はこの議論はとても面白い。毎日、国会を見て笑い転げている。議論をしている人たちがこれをよくわかっていないように見えるからだ。本当にわかっていない人たちと、わかっていてわざとボケている人が混じっているようなのだが、外からみると誰がどうなのかがわからない。

ホワイトカラーエグゼンプションは残業ゼロ法案というレッテルが貼られていて、日本人の正社員層が「残業ゼロ」になるような印象を与えている。これに対して管さんは「すべての社員に当てはまるわけではない」と言っている。管さんは知っているのだろう。

転落が予想される正社員

とはいえ、政府は本当の意図をおおっぴらには説明できない。高技能社員を輸入すれば、何のスキルもなく英語すら話せないのに非正規雇用の人に対して威張り散らしている正社員はホワイトカラーの元で働く「二級社員」になってしまうからである。加えて「同一賃金同一労働」が推進されている。これは正社員の特権剥奪だ。

実際には高技能移民の受け入れ政策はあまりうまく行かないだろう。普通の日本人は英語をろくに話せず外国人を受け入れる度量もインフラもないので、先進産業は香港やシンガポールなどの旧英国植民地に行ってしまう。高技能移民が来るとしても東京くらいだろう。東京の都市魅力度はかなり高いとされている。

そうなると大阪を含む地方都市は、二級社員になった正社員が海外にいる特急社員に使いたおされるというような国になるのかもしれない。そこからも漏れたような人達は大学で細かな法規制を学んだあと老人介護などをして過ごす。決して働きがいがないとは言わないが、給与は伸びず家庭を作ることはできない。

この予言は当たるか

日本は現在の支持者達を刺激せず、製造業も守り、なおかつIT産業に代表されるような高技能労働者重視の産業を惹きつけようとしている。いわばおいしいところ取りなのだが、政策に整合性がなく効果が出るかどうかよくわからない。

だが、トランプ大統領の政策をみると製造業を守る動きが高技能型の産業に対する競争力を削いでいるのは明らかだ。

ここから考えると、現在の日本の労働改革は失敗する可能性が高いと言えるのではないだろうか。

 

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