オペレーション新型コロナ : 関東軍と大本営のメカニズム

先日来、新型コロナウイルスの対処が「大本営」になってゆくプロセスを観察している。割と漫然と書いているのだが、Web論座で面白い文章が見つかった。牧原出さんという東京大学の政治学・行政学の教授が書いている。かなり明確にまとまっていてプロの文章はさすがだなあと思った。ただ長い文章なのでちょっと丁寧目に読んで行きたい。なお牧原出さんはオーラルヒストリー(聞き語り)の専門家だそうだ。ちなみに牧原さんが専門家を軍部にたとえているわけではない。このブログが勝手に言っているだけである。




この文章の問題意識の起点は頼りになる専門家が政策決定をして宣伝もしているという現状である。政治が責任を取っていない上に総合調整者がいないので何がどうなっているのかがよくわからないというのである。ここから安倍総理に総合調整を依頼する内容になっている。

このブログではこれを関東軍と大本営に例えてきた。つまり作戦を立てた人が説明をするので正当化に走るだろうという見込みを書いている。政策が間違っていてもチェックをする人がいないために間違いを補正できず暴走する可能性がある。今回は封じ込め政策が失敗しても方向転換ができない。なぜか検査数が抑制されているがその理由はもう誰にもわからなくなっている。

ただし、政策立案者に悪意があると言っているわけではない。つまり属人的な問題ではない。政策立案者やインプリメンターはそれぞれの役割を担っているのだが全体的な判断ができない。できないしやってもいけない。

例えば西村担当大臣は経済政策については判断できるが厚生労働行政については管轄できない。ゆえに自分の方針が「総合的に見て正しいのか」がよくわからないまま走らなければならない。これは西村担当大臣が「悪い」わけでも加藤厚生労働大臣が「無能」というわけでもない。だが不思議なことにこの二人が一緒に出てきて協力しているところは見たことがない。安倍総理が出て来て説明するわけでもない。

ではどうしてこんなことになったのか。これがこの文章の面白いところである。流れが二つに分かれている。まずは専門家と政治側である。文章では別立てになっているのだが時系列ごとにまとめ直した。これが「オーラル・ヒストリアン」の面白いところだなと思った。

  • まず1月30日に大臣たちの間で会合が立ち上がる。国家安全保障上の緊急事態宣言が出たタイミングである。専門家は不在だった。
  • 2月6日にダイヤモンド・プリンセス号(すでに船内感染者がいることはわかっていた)が横浜に着岸する。
  • 2月16日に遅れて専門家会議が立ち上がる。この時は国立感染研の会長が座長になっていて「クラスター封じ込め」という方針が作られたようだ。
  • 2月15日にクラスター対策班が作られた。データチームに西浦博教授(クーデターを起こす8割おじさん)がいてリスク管理チームに押谷教授がいる。
  • 文章には書かれていないが2月20日に橋本副大臣がダイヤモンド・プリンセス号の内部を撮影し感染症対策に不慣れであることが判明した。外部の専門家から異論が出てTwitter上で騒ぎになった。
  • 2月27日に内閣府の今井尚哉らが主導し一斉休校宣言が出されるが、菅官房長官は反対したと言われている。これまで総合調整をしていた菅官房長官が外された(あるいは距離を置いた)ために総合調整ができなくなり、官邸主導でのアベノマスクの失政につながってゆく。なし崩し的に補償の話が出てきて、休校補償のスキームが各自治体に作られた。
  • 3月22日にIOCから「オリンピック延期を検討」というニュースが流れる。
  • 3月24日にオリンピック延期が発表され、急に緊急事態宣言の可能性が高まる。岸田政調会長を中心に自民党で補正予算の話が出てくるのだが和牛券などの話が出てきて状況が混乱する。
  • 3月26日に有識者会議が作られる。有識者会議の下に諮問委員会が作られ尾身茂さんが会長になる。会議体としては分かれているが見解を出す人たちと方針を作る人たちがほぼ重なっている。
  • 4月7日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく初の「緊急事態宣言」が出される。のちに緊急事態宣言はなし崩し的に全国に広がった。専門家の有志がnoteに有志の会を立ち上げて個別に情報発信をしはじめた。
  • 4月16日公明党の山口代表がどなりこみ連立離脱を仄めかして閣議決定までされた岸田案を覆して10万円支給が決まる。予算案は1週間近く遅れた。公明党が怒鳴り込んできた理由はわかっておらずこの文章にも書かれていないが菅官房長官と創価学会がパイプを持っていたと指摘する人もいる。
  • この文章には書かれていないが4月15日には8割おじさんこと西浦教授が42万人死亡説というショッキングな試算を独自に発表しクーデターを自認した。

こうして総合政策がなくやみくもに戦線が拡大してゆく。文章が指摘するのは総合力とリーダーシップの不在である。

  • 首相の棒読み会見からわかるように安倍総理のリーダーシップが不在である。
  • 西村経済担当相にはスタッフが不足している。
  • 感染症の対策をしている人がなし崩し的に経済対策まで決めている。
  • 総合的判断がなく長期予測がない。

この問題設定は提言に接続してゆく。牧原提言では総理大臣のリーダーシップのものとに司令塔になる責任者を置きプロセスを可視化すべきだと言っている。だが、おそらくこれは構造的・文化的に不可能だろう。

第一にそもそも安倍総理が選挙用のお飾りでありリーダーシップや執行力で選ばれたわけではない。次に政府の内部であっても外部であっても責任を明確にして権限移譲をするという文化がない。また協力してクロスチェックしようという文化もない。日本では議論は相手を潰したり黙らせたりするためにやるものであって解決策を導き出すものではない。第三に専門家どうしで複数のチームを作ってクロスチェックする体制もない。これは新しい会議体が作られてチームの役割が変わってもメンバーが変わらないところからも明確である。外部からの人の参入を本能的に拒んでしまうのだ。

専門家の暴走(チェックが効かず方針も変えられない)という関東軍化や自己正当化のための大本営化には構造的な問題があることがわかる。

今回はこの点について軍隊に例えたのでQuoraにて第二次世界大戦に詳しい人の話を募った。なぜか「日本は満州国を守るために第二次世界大戦に突入して捨て石になった」という説に高評価が集まっているのだが、陸軍・海軍・外交などがバラバラに動いていてそれぞれが統率のない動きをしているという話を聞くことができた。

責任を取らず「する」ことにまったく不慣れな日本人が何かを始めるとおそらくいつも同じことが起きる。議論や相互調整が本質的にできないのだろう。このため普段の日本人は「誰にも何もさせないように」相互牽制をしてがんじがらめに縛りあっているのだろう。おそらく今回の新型コロナの話も同じで「じっと何もしない」のが最適解になるように思える。

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