先日、アメリカのメディアでフェイクニュースが横行しているということを知った。一般的にはアメリカではトランプ大統領を支持するRightと支持しないLeftが二極化していてお気に入りのニュースチャンネルを持っているとされている。ABC NewsやCNNはトランプ大統領には批判的だがFOXニュースはトランプ大統領に肯定的なニュースを流している。特にFOXニュースのフェイクを交えた暴走ぶりはいろいろなところで問題になっている。
メディアが両極化しているのは確かだがこれはアメリカのありのままを映しているわけではないかもしれないとするレポートを見つけた。
Newsweekの記事はFOXニュースとTwitterはそれぞれ別の意味で危険だと言っている。FOXニュースはヘイトや分断を助長するような記事を流すのだが実際に悪用されやすいのはTwitterの方だという。断片的な情報が次から次へと流れてくるので検証が難しくなるのである。アメリカ人が処理しなければならないニュースの量は明らかに増えている。
情報が飽和すると「本当のこと」を追求しよういう気持ちは薄れる。試しにFOXニュースの捏造について調べたところハフィントンポストの記事を見つけた。経緯を読んで情報を追うのを諦めた。このように次から次へとニュースが入りその中には一定数の嘘や誇張が含まれている。
日本でも情報爆発は問題になった。それがインフォデミックである。日本人がインフォデミックをどう捉えているかという調査はないが、アメリカ人はニュースの氾濫そのものにうんざりしているようである。ピューリサーチセンターの記事を見つけた。継続的な調査が行われている。
この記事は2020年初頭ものだが2018年くらいから同じ傾向が続いているという。だいたい2/3のアメリカ人がニュースの量に疲弊しているというのだ。この数字は2016年よりも増えている。
共和党の支持者のほうがニュースに疲れている傾向がやや強いそうである。さらにニュースを熱心に追っている層とニュースに疲れてしまっている層が分離していることもわかっている。
ニュースを熱心に追いかけている人たちはそうでない人に比べると疲労度が少ない。人種で見ると白人がやや疲れていて、黒人やヒスパニックはそうでないという傾向もあるのだそうだ。目の前にある当たり前が崩れてゆくと考える白人も多いのかもしれない。
同じ現象を別の角度から切り取ったものに疲弊したマジョリティ(Exhausted Majority)という図式がある。CNNの解説を見つけた。オリジナルのレポートはここから読めるようである。
このレポートは左右両極端をwingsと言っているプログレッシブアクティビストと献身的な保守党を合わせてもアメリカの人口の14%にすぎない。伝統的な保守派を合わせても33%しかいないそうだ。
このレポートもCNNの解説も「トランプ大統領によって顕在化された二極化は心配するほど国をバラバラにしているわけではない」という楽観的な見方を示している。メディアがビジネスのためにこうした両極端に分断されたアメリカという図式をつくっているだけだというのである。
レポートは8,000名のアメリカ人を、wingsと「疲弊したマジョリティ」に分けていろいろな問題について聞いている。wingsはもちろん両極端な意見を持つわけだが、疲弊したマジョリティはかなり穏健な思想を持っている。だが彼らは同時に職場などで極端な政治的意見の対立にうんざりしていて「分断が早く解決してほしい」と願っているようだ。
日本でもおそらくメディアの二極化は進んでいる。こうなると政治そのものに嫌気をさして政治参加が阻害されてしまうのではないかと思った。だがこの見方も正しくないかもしれない。
日本にもwingsのような人たちはいるが彼らの関心事はマウンティングであり実は政治課題にはない。他人を裁きたい人たちだけが極端な政治的意見をTwitterで表明しそれ以外の人たちは政治から離反する。だが政治から離反した人たちもワイドショーを見ながら芸能人を裁き続けている。日本人は疲れているわけではなく「政治のことはよくわからないから裁けるものを見つけよう」としているのかもしれない。
もちろん日本人は実名で社会に出れば他人に裁かれる。日本人は実名では他人に裁かれることを受け入れつつ裏では匿名で他人を裁き続けているのかもしれない。
アメリカはキリスト教個人主義社会なので神様以外のものが他人を裁けるとは思わないのだが、日本人は村のメンバーは他人を裁いてもいいと考えるのだろう。集団で見ればかなりグロテスクな光景だがおそらく裁いている人たちはそうは思っていないのだろう。政治課題について討論しているとやたらに「私の判断は留保する」とか「私はこう断定した」という人が多い。自然と裁判官気分担ってしまうのだ。
CNNでは共和党・民主党を支持しない人たちを「インディペンデント(独立派)」と言っていた。日本ではこれを無党派とか浮動票などと言ってネガティブに扱う傾向がある。これも違いがあって面白いなあと思った。アメリカの疲弊するマジョリティも無党派層も実はこちらが主流である。ところが日本の政党はなぜか「自分に味方してくれない人はいないこと」にしたがるのである。日本の政党もまた有権者を裁いている。