Yahoo!で読売新聞の面白い記事を見つけた。内容も面白かったのだがそのあとの無反応ぶりも面白かった。記事のタイトルは病院で「なりすまし防止」外国人に身分証要求へというものだ。これだけを読むと「あ、外国人の話なのか」と感じるだろう。だが冒頭のパラグラフを読むと全く別のことがわかる。記事を素直に読むと日本人にもIDが必要になるのである。
政府は外国人が日本の医療機関で受診する際、在留カードなど顔写真付き身分証の提示を求める方針を固めた。来年4月開始を目指す外国人労働者の受け入れ拡大で、健康保険証を悪用した「なりすまし受診」が懸念されるためだ。外国人差別につながらないよう、日本人にも運転免許証などの提示を求める方向だ。
つまり、IDカードがないと診療が受けられなくなる可能性があるということになる。実際には健康保険証を持っていても10割負担ということになるのだろう。IDとして想起されるのは運転免許証だがすべての人が持っているわけではない。そういう人はパスポートかマイナンバーカードが必要になるはずだ。このエリアは特にリベラル系の人たちが反対しそうなテーマなので、Twitterでも大反対が起こるだろうなと考えたのだが、実際には無反応だった。
先日来、フレームワークの話をしているのだが、日本人はフレームでものを考えるのが苦手なようである。このため毎日新聞社は「外国人のなりすましを防止する」というフレームを提示することで「ああ、日本人には関係がないな」という印象を与えようとしているのだろう。
以前、2020年からマイナンバーカードを保険証にするという話が出た時も大反発されていた。そもそもマイナンバーカードに反対をするというのも実は経緯から来ている。別に野党が反対する根本的な理由はない。労働組合や社会党系の人たちが1970年代から国民総背番号制度(コトバンク)と呼んでこれを嫌っていた反対してきたのが現在にお約束事として残っているだけの話なのである。これが長い間積みかさなり「政府はマイナンバーカードを使って国民の健康状態を盗み見しようとしている」というようなビッグブラザー言説が生まれた。
一方で、政府の世論把握能力も低下しているのではないかと思われる。最近の読売新聞社は政府のサウンディング(昔は観測気球などと言われた)に使われることが多い。官邸主導が増えて自民党が持っていた「世論を探る」機能が弱体化しているのではないかとも思う。顧客である有権者を管理しているのは各選挙事務所だからである。反発が出れば撤回もあったのだろうが、無反応だったので記事通り来年度には国会審議なしで「運用」が始まりそうだ。
いずれにせよ、フレームに乗れば大騒ぎがおき、乗らなければ大切であろうとなかろうと無視される。そこで「検討を始めた」というニュースが次から次へと出てきて、そういえばあのニュースどうなったんだろうというようなことが増えてゆく。
政府としては2020年からマイナンバーカードに保険証の機能を持たせようとしている。政府はマイナンバーカードに全てを集約したいのだがTwitterの反応は「なぜ保険証に顔写真をつけないのか」と反応していた。政治家が説明せずに新聞辞令だけで物事を進めようとするので、話が理解されないままで複雑な方向に流れてしまうのである。保険証に顔写真を入れると保険を受け取るために顔写真を撮影しなければならなくなるので市町村役場は大混乱するだろうし、保険証は厚生労働省版のマイナンバーカードになってしまう。
これまで膨大な社会問題をすべてたった一つの保守・リベラルという対立軸で「処理」してきた日本人は問題の目利きができなくなりつつあるのだなと思った。そこで話の持って行き方でその後の問題の良し悪しが大きく変わってしまううえにどんどん部分最適化が進む。
試しにこの問題をQuoraで質問してみたところ「あなたがどこでそんなデタラメを仕入れてきたのか知らないが」というようなニュアンスの回答が戻ってきた。日本人は変化をとても嫌がるので、表から「来年から日本人がお医者さんにかかるときにはIDを求める」とやってしまうと大反発が起こる可能性があるということがわかる。ヘッドラインの書き方は重要でフレームワークさえ変えてしまえばいくらでも反応を操作できるということになる。
実はフェイクニュースよりこちらの方が怖い。フェイクニュースは事実に当てはめれば違っているということが立証できるのであとから反論が可能だが、初動である空気を作ればなし崩し的にものごとを動かすことができるのである。一方で反対している人たちも実はよく考えて動いているわけではなく既存の対立行動に合わせて脊髄反射的に反応しているだけなのである。
よく野党支持の人達は説明責任を果たせなどというのだが、よく話を聞かずに騒ぐ人も多い。結局この国民がいてこの政府なのだなという気になる。そう思ってTwitterのタイムラインを見ていたら「消費税20%」でちょっとした騒ぎが起きていた。こちらも3%か5%かくらいから揉めており目的ではなく税率が一人歩きした議論が定着していることがわかる。
だが、この問題を1日おいてみて、そもそもお医者さんが明らかな日本人に「IDを出せ」ということはないんだろうなと思った。通達が出ても無視すればいいだけの話だからだ。結局は外国人対応であり「差別なのでは?」という野党の反発を事前に封じたかっただけなのだろう。が、今度は日本人なのに外国風の苗字を持っているとか(結婚するとこういうことがあるそうだ)白人系や黒人系の両親を持つ日本人が差別されることになるんだろうなと思った。彼らは明らかな日本人であるにもかかわらず在留カードの提示を求められたりすることがあるそうである。