靖国神社を爆破しようとしたとして、全昶漢(チョン・チャンハン)容疑者が逮捕された。再入国しようとした羽田空港で火薬とタイマー(のようなもの)を持っているところを捕まったのだという。これを聞いて「火薬を持っていても飛行機に乗れるのか」と不安に思った人も多いのではないだろうか。
この人が怪しいということは誰もが知っていたようだ。週刊誌の記者がマークしていたということだから、当然警察も知っていたのだろう。当然、韓国政府もそのことを知っていたに違いない。にも、関わらずこの人は火薬を持ったまま飛行機に乗れてしまったわけである。
このことはつまり日韓の飛行機(どこの便かは分からないが、金浦-羽田間は日韓のコードシェアのようだ)は、警察にマークされるような人物が火薬を持って乗って来てもお咎めがないということを意味している。世界各国でテロが蔓延する現在、これはとても危険なことだ。誰もが「犯人が機内で火薬を爆発させたらどうするつもりだったのだろうか」と危惧を抱くだろう。そうなったら乗客は巻添えである。少なくとも日韓の飛行機には乗らない方がいい、ということになる。容易にテロリストの標的になりそうだからだ。
「荷物検査では見分けられなかった」という意見もあるようだが、ロシアの飛行機はジュース缶に仕掛けられた爆弾が原因になったという情報もある。日韓の警察当局が航空会社に連絡しなかったのだとしたら、責められるべきは日韓当局ということになる。日韓の公安当局は危険な男を野放しにした上に、穏便に逮捕さえできれば乗客は巻添えになっても仕方がないという「判断」をしたのかもしれない。
一方、この発表自体が嘘なのではないかという人もいる。容疑者が韓国から火薬を持ち込んだとすれば、単独犯だという印象が強まるからだ。このことは日本国内に協力者がいないということを意味する。もしこれが当局の偽装だとすれば、別の危険性がある。本当は国内にいるかもしれない協力者を隠蔽してしまうことになるからだ。韓国人の協力者だから当然韓国人だろうという予想が成り立つのだが、そうとばかりは言い切れない。政府に不満を持っている日本人も大勢いるのだ。
このニュース「韓国人はけしからん」という意味ではそこそこ話題になったが、日本の治安対策は大丈夫かというような声は聞かれなかった。また、航空機へのテロ対策を強化すべきだという声もなかった。これは新幹線で焼身自殺が起きたときの対応に似ている。ポリタンクが持ち込まれて起きたのだが「新幹線で手荷物検査をしろ」という人はほとんど出なかった。
セキュリティが強化されればそれだけ不便になることは容易に予測できる。そこで「致命的なことはほとんど起こらないだろう」という見込みが働くのだろう。いわゆる正常化バイアスが生じるのだ。マスコミが政府の圧力に屈したという見方もあるだろうが、「何も起こらないで欲しい」という意識も働いていてのではないかと思う。
この事件は間接的に日本人がテロの脅威を外国のものだと考えていることを伺わせる。「日本にいれば大丈夫だろう」という見込みを抱いているのだ。今のところ国内で深刻なテロは起きていないので、この見込みは正しいが、明日のことは分からない。
よく安保法制の議論で「戦争法案が通ったら日本はテロの標的になる」という人がいる。なかには、原発がテロに襲われると指摘した人もいた。しかし、実際にはこうした発言は単に相手を攻撃する意味合いしかないのだろう。と同時に、今回の件で積極的な発言をしなかった安倍首相も「日本人の生命を守る」ことにあまり関心がなさそうだ。「世界情勢は変わっている」などという発言をよく聞いたのだが、本心では「変わったのはアメリカの要望だ」ぐらいにしか思っていなかったのではないだろうか。