ネットで「日本が悪くなったのは全て日教組のせい」と言っている人を見つけた。ちょっとめまいがしたのだが、どういう精神構造を持っているのかにも興味もあった。どうやら「人権」を叫ぶ人たちというのは全て外国の陰謀で動いていると考えていることは分かった。彼らの世界観によると「人権」を叫ぶ人たちというのは全て売国的な共産主義者なのだ。
西洋流の教育を受けた人間の頭の中では人権は自由主義と結びついている。私有財産を許容することで経済が活性化するからだ。また、政府の干渉をなくせば自由交易が増えて、域内の価値が最大化されると考えられている。さらに、言論の自由を保証することでより多くの意見が集る。これを集約する中でよりよい選択肢が生まれる。この「集合知」が民主主義を支えると考える。だから民主主義社会ではプロセスと多様性が大切なのだ。
こうした世界観が生まれるのはどうしてかと考えてみた。それは冷戦下で育った人たちは「私有財産や言論の自由がなく」「中央集権的な計画経済」がどうなったかを身をもって知っているからだ。つまり、中国、ロシア、東ヨーロッパで何が起こり、それがどのような結末を迎えたかを目撃しているのだ。つまり、資本主義(自由主義)と社会主義を対立概念として捉えているのである。
ところが「日教組陰謀論」を信じている人たちの頭の中ではGHQのもたらした民主主義と社会主義がごっちゃになっているようだ。どちらも「日本を弱体化させた」と考えられている。なぜ、アメリカと社会主義がごっちゃになっているのかが長い間分からなかった。
少し考えた結果、視点をずらせばよいことが分かった。戦前の日本と西洋の民主主義諸国(社会主義も自由主義も)を対立概念として置けばよいのだ。アメリカも共和制国家なので同類といえば同類である。つまり、視点を右傾化させればよいのだ。
よく考えてみると、今の世代は東側の世界を知らないのだ。その上低成長時代に育ったので「言論の自由が経済的豊かさをもたらす」などと言われてもぴんとこないのだろう。民主主義とは「バラバラに自分の言いたい事を言っている」ようにしか見えないのかもしれない。
アメリカが日本を弱体化したという話なのだが、アメリカは日本を資本主義のショーケースにしようとした。そのため、通貨を安く抑えて日本の品物がアメリカを席巻することになる。結果的にアメリカの経済を脅かすまでになり「日米貿易摩擦」と呼ばれ、日本は西独を抜いて世界第二位の経済大国になった。もし、アメリカが日本を弱体化させたいのであれば、教育を通じて日本人をわがままにするなどという回りくどいことはしなかっただろう。アメリカ市場から締め出してしまえばよかったのだ。
つまりGHQの日本弱体化計画とは「ショッカーが世界征服をするために幼稚園バスを襲う」というのを同じような話なのである。
この世界観のおもしろい所は、西洋流の民主主義社会との対立概念を何に置くかという点だろう。戦前の日本は計画経済ではなかったのだが、なんとなく、満州の植民地経営と戦時計画経済が頭の中にあるのではないだろうか。みんなが心を合わせて一生懸命働けば効率的に豊かになれそうな気はする。しかし、それは計画経済下の社会主義と一緒なのである。「日本が悪くなったのは全て日教組のせい」と考える人たちは、皮肉なことに彼らが嫌いな左派の人たちと同じ目的を持っているということになる。
ここまで考察すると、左側の人たちがどのような指向を持っているかが気になるところである。彼らはなぜ人権が大切だと思っているのだろうか。なんとなく「人権が大切なのは当たり前だろう!お前さては右翼だな」などと言われそうな気がする。よく考えるとこれも当然の反応だ。低成長なので、自由と民主主義が経済的成長をもたらすという前提が信じられないのだろう。
結果的に右派が社会主義を信奉し、左派が自由主義を擁護するというめちゃくちゃな鏡の世界に住んでいるのだ。